第14話 刻まれた獅子 確保編
誤解とはどのように生まれるのだろう?
褒めたつもりがそのヒトにとっては貶した風に聞こえる
逃げようとしたのか逃げたかったのか?
今となってはもう
妻子を連れ去った人物に僅かながら心当たりがある、願わくばその悪夢が現実でないことを望む。
『最上階』
この言葉が私の中に
五階に辿り着く、部屋はどれも同じように見えるが廊下の果てに血のように赤い塗料で矢印と伝言が描かれていた。
ココニ解答ハアル
私は奔った、突き当りの部屋を覗く。
あった、ベランダに不自然に置かれた椅子その上にごく普通の鍵が月明りに照らされ銀色に輝く。
不意に肩を叩かれる、後ろには少年と大男が突っ立っていた、チビの方が何かを持っている、俗に言うカンペのようだ、内容は以下の通りだ。
「私達は探偵です」
小さい方の風貌はアニメで見た探偵少年さながらでとても似合っていた。
大きい方はどちらかというとホラー映画の敵役のような風貌だ、正直怖い。
ページをめくる。
「以下のように行動を取ってくだしい」
字が汚い、大きい方は身振り手振りで必至に説明しようとしている。
「あ、そうか」
小さい方が私に黙るように指示する、
コールが鳴る、出るように小さい探偵が指示する。
『ミチニマヨッタカ、モタモタスルト
「わ、わかっている!」
突如、少年探偵が私の下腹部に強烈な拳を入れる、苦悶の間際に大きい方の探偵が麻袋を月夜に放り投げた。
絶叫が廃墟の団地全体に響いた。
そして私は気を失った。
「最低ですね、先輩」
「その言い方辞めて、イライラするから」
後輩は彼の行動に怒りを感じた、他者の痛みを気にしない図太さに
「舌打ちすんな」
「してません」
「した」
「してません!」
「したってば!!」
『フハハハハハハ!』
突如、夫婦漫才の如き茶番劇に水を差す高笑いに怖気づく探偵。
『………』
無線機は沈黙する、同調する二人の探偵。
『さようなら、我が友よ』
「我が友伸びてるけどね」
「あんたがやったんでしょうが」
しばらくして気を失ったターゲットを乗ってきた車の後部座席に保護し、しばしの一服に興じる。
「たばこ?」
「さて、これは何に見える?」
彼女に近づきよく見てみる。
「ああ、お菓子か、懐かしいなぁ、子供の時見かけたよ」
「食うかい?」
そういうと菓子箱を彼の前に差し出す。
「いただきます」
軽く礼をしながら菓子箱から一本を取り出す。
「律儀だね」
「そう?」
「少なくとも好感は持てた」
星々を覆う雲は流れ去り月明かりが優しく彼らを照らした。
「さっきはごめん」
「さっきって?」
「階段駆け上がってた時」
和戸が察する、口の中に菓子を頬張りながら
「ああ、気にしてないよでもなんでホームズが嫌いなんだい?」
鹿屋の表情が曇る。
「ああ、ちょっと昔を思い出してね」
青い瞳が瞼の奥に隠れる、
空に浮く白い月と同じほどに彼女の瞳は美しかった。
「……そういえば、あなたはいくつなの?」
彼の表情が固まる。
「えっと、26歳です」
突如、彼女が笑いだす。
「私と同じじゃない!」
和戸も驚愕する。
「本当なんですか?そうは思いませんでした」
「なんで?」
彼女が疑問を投げかける。
「いや、探偵の技能が素晴らしいなって」
彼女の顔が
「褒めてもなにもでないよ」
「もう十分に堪能しました」
まるで兄弟の如き会話、彼らの背後にゆっくりと黒い影が迫りくる。
「おい」
二人は身構える、まるでバカップルを見るような視線が彼らを襲う。
「なんだぁ所長じゃん、どしたの?」
気さくな挨拶で所長を迎え入れる鹿屋、所長は震えている、寒さではなく鹿屋に対して怒っているのは明白だ。
「さて、まずは和戸君、本当に申し訳ない」
誠心誠意こもった礼に戸惑う和戸、所長は彼に封筒を渡した、少し膨らんでいるのを見るにかなりの額だ。
「いいなぁ」
「やかましい!オマエはだまってろ!!」
叱責する所長、まるで子犬を躾ける親犬のようだ。
「いえ、僕は気にしてないんで……」
止めに入る和戸、ふと誓約書のことを思い出す。
「あ、そういえばあの誓約書ってありますか?」
所長がハッとする、どこから出てきたのやら紙とペン、そしてクリップボードがその手に握られていた、和戸は一切躊躇なく誓約書にサインした。
「これにて君は我々『並木探偵事務所』の仲間だ、よろしく和戸君」
さきほどとは討って変わり気品ただよう声で所長は言う。
「よろしくお願いします」
和戸も負けじと礼を言う、鹿屋は満足そうに魅入る。
月下の誓いは果たされた。
「後、お前は始末書な」
鹿屋はがくっとうなだれた。
犯人を取り押さえるべくに三人は車内で一泊し犯人が来るのを待ち構えた、しばらく待つと望月警部と武装警官が数名が監視に加わった、警棒とシールドを携行しかなりの重武装であることが見て取れた。
「和戸君は犯人が来たら犯人を完全拘束するまで下がっていてくれ」
和戸にそう指示を促す望月警部も上着の下に防弾チョッキのようなものを羽織っているのが見てとれた。
推理が正しければ犯人は単独犯である、それに対してこの武装は些か大げさに見える。
「さあ、来たぞ」
早朝、日が昇りだした頃、廃墟と化した団地に侵入者が現れる。和戸が聴き込みをした際に証言にあった、ジャージと完全に一致していた。
団地の見取り図らしき紙に眼を配りながら急ぎ足で団地の中へと消えていた。
「鹿屋と俺は
所長が警部達に指示を送る、警部は無言で頷き警察隊とともに団地の建物外周へ回った。
「よし後を追うぞ」
部下二人について来るように指示し三人は建物の内部に向かった。
「無い、無い、無い、無い!!」
スポーツバッグを肩に下げた男が叫ぶ、それもそのはず、この罠にかかったのは鹿屋の用意した麻袋なのだから、ビニールシートには臓腑と血液は一切なく、グラウンドに引く白線用の石灰が飛び散っていた。
「確保!!」
ガラスの無い窓から警察隊が男を取り押さえようと窓から雪崩れ込む。
男は鬼気迫る表情で逃げ道を模索すべく背後の出口に振り向くがそこには三人組が立ち塞がる。
複数人相手に数分も抵抗した後に力尽き男は取り押さえられた。
「お初にお目にかかります、大鳥一色さん」
鹿屋が男に近づき挨拶をする。
「あなたの復讐劇はこれにて終幕です」
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