第5章 回想

第16話 戻れぬ夏、消えぬ悪夢

 人は死ぬ、いずれ死ぬ


惨たらしく、呆気なく、


ゴミのように、玩具のように


夢のように、現実のように


 ワタシは走り続けた、猛り狂う獣のように


 今でも目に焼き付く惨状、消えた顔、愛した人の顔


 傲慢な獅子達と裏切り者は奪っていった、その希望もその未来も。



団地がまだ人気で溢れていた頃だ、私、大鳥一色はこの近辺に住んでいた

この計画を実行し遂に仕留められ無かった男、松野善影はその団地に住んでおり、とても仲が良かった。

日曜日はもっぱら今はなき溜池にカエルやメダカ、ザリガニなどを取りに行ったり、夏休みには遠出をし山や森にカブトムシやクワガタムシを取りに行くような一般的な親友のような存在だったのだ。


そんな仲に陰りが生じたのは中学の頃だった。


中学校に入ると小学生の時と違い他校であった小学生も入ってくる、その中にいたのが長丘 正章、陽道 進、仲嶋 景であった。


厳つい獅子の刺繍の入ったスカジャンを着る金髪の長丘。


二人の腰巾着、陽道


そして親が有名な市議員の仲嶋、後にこいつが二人をけしかける黒幕のような男だと知った。


私が始末した屑共は松野をいじめの標的とし家が貧乏という点とその彼に成績を越されたという些細な二つの理由で大なり小なりの嫌がらせを受ける羽目になった、その当時小柄で臆病な松野は格好の標的となった。


持ち物を盗む、飯代をカツアゲするなどは日常茶飯事。

教師の目を掻い潜り陰湿ないじめがあるたびに私は松野を庇った。


「あいつらに何かされたらいつでも言えよ、俺に出来る限りのことするから」

「ありがとう、大鳥くん」

自分や他の友人の協力でこの事態を把握してなかった担任にいじめの実態がバレ、次第に事態はなりを沈めていった。


そして中学生最後の夏休みに事件は起きた、私にはその時瑞穂という彼女がいた。松野とも一緒に遊んだり、試験前は三人でよく図書館で勉強会を開いたりした。 (その甲斐あったおかげで松野はいじめの標的になったのだが)


「中学生生活最後の思い出づくりにどう?」

瑞穂は夏休みに突入する前日に彼女にある提案を持ちかけられた。親戚に聞いた話らしく近くの山、といってもそこまで大きくは無く整備も行き届いた山で中学生でも容易に登れる山で夏の夜は満点の星空が見えるということだった。

「いいな、それ松野も誘って行こう」

「約束ね」

そうして約束の日が来た。



『ごめん、行けなくなった、おばあちゃんの調子が悪くて』

天体観測数日前に松野からメールが来た、天体観測に来れないという旨の内容だった。


松野は貧しい家庭であったが個人の携帯を所持しているのは寝たきりの祖母がいる為緊急連絡を取れるようにする為である、その祖母の介護の補助と偏差値の高い名門校に推薦入学を目指していることもありやむ得ないと思い二人で行くことにした。


天体観測当日、天候にも恵まれ私は中古品店で貯金をはたいて購入した安物の望遠鏡を肩にかけて一人山を登った、現地集合ということになっていたので私は山の山頂の開けた丘を目指した。


夜空には星が散りばめられている、現在いまではもう見ることは叶わないであろう光景が広がっていた。


私は視線を落とし丘を見渡す、月明かりも相まって視界は望遠鏡と一緒に持参したライトを点灯しなくていいほど良好だった。


周囲に人の気配がない、予定時刻になっても彼女は姿を表さない、真夏であるのにもかかわらず何か嫌な悪寒に囚われた、もしかしたら迷ってしまったのでは無いかと、私はすぐさま携帯を取り出して瑞穂に電話した。


携帯の着信音が夜闇に響く、音の聞こえる先は藪と木々の中からだ、どうやら彼女は隠れているらしい。


しばらく待って様子を見ることにしたが一向に出てこない、嫌な予感がした。


着信音のする先にライトを照らして進む、そこには瑞穂の携帯があった、だが彼女がいない。


辺りをくまなく探していると微かな呻き声が聞こえる私は声の先にライトを向けた。


絶句した、顔は殴られ熟すぎたトマトのように腫れ手足は両方ともあらぬ方向に曲がった女性が呻いていた。


瑞穂だった。



 

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