part Ⅹ NEW GAME

 子供の時からゲームが好きだった。


 ゲームは忠実で愚痴は言わないし偉そうにしない、ひたすらやりこめばやりこむほど楽しくなる。


 演じるのもそうだ、相手の機嫌を読み、へりくだった態度を繰り返せば騙せる。


 嗚呼、ワタシ一体いつ私を失ったのだろう?


「……い………お……」

 重い瞼を開ける。

「おーい、返事をしてくれぃ」

 受話器の向こう側から情けない声が響く。

「ごめん、ちょっと微睡んでた……」

「ちゃんと寝なきゃダメじゃないか」

 あ、これは話が長引くパターンだ、流れを変えなくては。

「ところで頼んでおいた情報は見つかった?英一」

「ああ、ばっちりだ、全部そっちにFAXにして送るぞ」

「ありがとう、恩に着る」

「どういたしまして」

 受話器を降ろす、我ながら長電話中に居眠りとは情けない話だ。


 誰もいない事務所、所長も出払っているらしい、窓は締め切っているはずなのにどうしてだか寒くてたまらない。


 応接用のソファに寝転ぶ、滅多にできないことだ。


ギィ


 不意に扉が開く、空き巣か?いや、あいつだった。

「おー、どうだった?初の聞き込み?」

「どうだったじゃないですよ!放置はあんまりじゃないですか!」

「はっはっは、悪い悪い、で?どうだった?成果は?」

 不貞腐れた彼をいじるのはおもしろい、少し意地悪だったかもしれない

「近隣のコンビニで強盗があったのと野次馬の中に大きなスポーツバッグを持った男がいたくらいですかね」

 彼はぶっきらぼうに言った。

「違う違うそうじゃない」

 堪らず話しを遮る、私が知りたいのはそこじゃない。

「聞き込みは楽しかったかってきいたんだ」

 彼の表情が強張る、考え込むほどのことか?だが彼の表情はいつの間にか自信に満ちていた。

「その表情、さっきの報告、君は想像以上に聡い人間だ」

 我ながら堅苦しいことこのうえない捨て台詞だ。

「ここに入ってきた新入りのほとんどが聞き込みで折れるんだよ!恥ずかしいだのなんだの言い訳してね!!」

「だが君は違った、嫌々ながらでも臆さず突っ込んだのは評価に値する」

 少し間を開けてから私は言った。


「だからこそ君にはこの事件の真相を暴く瞬間をお見せしようと思う」

 彼が呆気に取られる、やはり推理オタクにこのパワーワードは心に響いたらしい、私はさらに彼の努力を労うことにした。

「あっ、そうだ、君がたどり着いたスポーツバッグの男、間違いなくそいつが犯人だと思う」

 あいかわらず惚けている彼を無視し私は次の行動に出た。

「よし、次に証拠を明確にしなくてはいけないな、犯人は間違いなく証拠を二重で消す準備が整っているはず、じゃあ行こうか」

「行くってどこに?」

「二番目の殺人現場だ」

 彼は驚愕する、流石にそこまでは現場だけではたどり着けないからね。

「まだ殺人事件が起きるんですか!?」

 彼のリアクションが唯々面白い、自分も探偵気取りに成っているが満更でもない。

「それも連続殺人だ」

 腕時計の方に目やると5時を指していた、流石に長居しすぎたようだ……

「埼玉、埼玉っと、あっ、ここか」

 47都道府県+1分のボタンがずらりと並ぶ、私は躊躇うことなくスイッチを押した。


『転送を開始します、転送を開始します、窓及び扉付近から離れて下さぃ』


 いつ聞いてもくそやかましいサイレンが響く、近所迷惑が過ぎる。

「さて、少し驚いたかな?」

 彼の方に目を遣る、物音を察知した猫のようだ。

「少し所じゃないですよ!この事務所、誓約書もわけわからんし、この警報!ロボットにでも変形するんですか!?」

 その発想は無かった、思わず爆笑してしまう、彼の顔はトマトのように真っ赤になっていた。

「そうパニくるなよ、今はこの事件の真相を解き明かすことを優先しようじゃないか」

 私がそう言ったと同時に……


『転送が完了しました、転送が完了しました、お疲れ様です』


 少し気を落ち着かそうと息を整えている彼を気にしない……つもりであったが気なる。

「急ぐぞ、ワトソン君、今回の証拠は私たちを待ってはくれないぞ」

 彼は大きなため息を一つ吐くと観念したらしく面を上げた、彼を茶化すのもいいがそろそろ本当に時間がない。

「早く乗れ、時間が惜しい」

 彼はそそくさと車に乗った。




「早すぎる!標識が見えないのか君は?」

 焦っているのかため口になっている、一応上司……いや、上司になるかもしれない奴に吐く台詞か?


「そこのミニバン!止まりなさい!」

 よし、釣れた。

「なにがだ?」

 どうやら愚痴を零していたらしい。

「正気か!?君は!?」

 彼がまた失礼なことを言う。

「正気さ!」

 

 目的地に着いた、アイツの情報が正しければここでもう一つの殺人は起きている。

「すみませーん、警察のものです!」

 唖然とする作業員を横目に私はひたすら廃墟と化した団地を突き進む。


 そこはもう陽が落ちかかった時刻には似つかわしいほど明るくそして壁の四隅にはくっきりとラインが描かれていた。

「良かった、間に合った」

 急に止まったせいか心臓がバクバク鳴る。

「何が良かったんだ?そろそろ教えてくれたっていいだろう?」

 私は思わずはにかんでしまう。

「ここ、何か共通点を感じないかい?」

 彼が辺りを見回した後、首を傾げる、ならヒントを上げてみよう。

「上、見てみなよ」

 私は天井を指さす。

「ふ、吹き抜けぇ!?」

 力の抜けた声を上げる、どうやら仏にしか目がいかなかったらしい。

「今日見た殺人現場も同じような構造になっていた」

 驚愕しているがどうやら真実には辿り着けていないらしい。

「私が君に聞き込みを頼んだ後、私は廃墟を見回り吹き抜けを見つけた、そこから警部に被害者の情報をあるだけ聞きパトカーに乗せてもらい事務所に戻った」

 彼は私の推理に耳を傾ける。

「まず私は三つのことを調べた、一つは被害者を殺す動機を持つものを探すこと、これは被害者が恨みを買いやすい人でなしだったから後に回した、二番目に似たような廃墟がないか調べあげた、そしたら四つの廃墟がどれも五階建てで第一次ベビーブーム頃に建てられたものであるということが判った、一つはもう取り壊されていた、もう一つはここ、そして三つ目が今日の事件現場だ」

 彼が手で顎を支える仕草を取った、考え込んでいるようだ。

「そんなのどうやって調べ上げたんだ?大体五時間も無かったじゃないか?」

「私の知人に頼んだのさ、すこぶる有能な働きアリみたいな奴でね、さぁ話を続けよう」

 和戸が眉をひそめる、ん?何か変なこと言っただろうか?気にせず話を進める。

「三番目だが私はここ数か月で行方不明者がいないか確認した、そしたら二人の男が浮上してきた、しかも一人は妻子持ちでその妻子も行方不明者ときた、そのご両親が捜索願いを出していたからね、そこから今回の被害者と共通点を調べ上げた結果、彼らは中学時代の同級生であることが判明した」

 彼が驚嘆と疑問の表情を浮かべる、何か間違えただろうか?

「いたぞ!」

 視界に邪魔者が入る。

「お待ちしておりました、鑑識さん呼んでもらえます?」




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る