第3章 刻まれた獅子 鹿屋編

Part Ⅷ the Surface

「はい、どなた?」

来訪者の応対をする、差し詰め昨日、アイツだというのは察しがつく。

「私は和戸と申します、この度の面接の約束でそちらに参りました」

挨拶からして堅物野郎だというのが察せる、言うんなら順番が逆だろうに、ワタシは応答に集中した……というか所長はこのタイミングでトイレだ、なんという空気の読めない人だ。

「ああ、入って入って」

 少し間が開いた後に来訪者が扉を開ける、その姿は昨日とさほど変わらない……というより同じだ、それしか服無いのか?

 


 来訪者は返事をしない。

「おうい、何ぼーっとしてんの?こっちこっち」

 応接間に誘っているのに今度はこっちをジロジロ見てくる、一体何がそんなに気になるんだ?

「すみません、すごく仕事がしやすそうな仕事場だなあと思って」

 借りてきた猫のように大人しそうな男だ、背が高い癖に女々しい、イサトさんとは大違いだ。

「待っていたよ、ワト タカシ君、私がこの並木探偵事務所の所長、平賀宗助だ」

 タイミングがいいのか悪いのかわからない時に降りてくる、遜りすぎだろうに、それに伊達眼鏡はない、センスがない。

「立ち話もなんだ、掛けてくれ」

「失礼します」

そういうと彼はソファに静々と座る、ぎこちなさそうに。

「早速だがテストを受けてほしい、後これも」

そういうと所長は来訪者の前に時計を置いた。

「時間制限はないから一問一問きっちりと熟慮してくれ、私達は邪魔にならないように裏に下がっておくから解答を解き終わったらこのチャイムを鳴らしてくれ」

 所長はそういうとワタシに合図し後を追うように奥に下がった、ドアを閉めた時、ふと来訪者の持ち物が気になった、扉を開ける。

「そういえば、君、携帯の機種は?」

 余りにも突拍子のない問いを投げかけてしまった、彼は解ってくれるだろうか?

「あっ、りんごです」

 なるほど、言いえて妙だ、少し頬が緩んでしまう。

「ふぅん、あんまり気張るなよ」

 我ながらぶっきらぼうに言うとドアをバタンと閉めてしまった。

「なにしとるんだ?」

 所長が変なモノを見る目で俺を見る。

「いや、別に……」

「ならいい、上に行くぞ彼の力を見定めなくてはな」

「あらほらさっさ」

 事務所の三階は居住区になっており部屋は7つ、一つは風呂と洗濯場、もう一つはキッチン……と言っても所長もオレも料理という分野はてんで駄目なため野ざらし状態だ。

「おい、早くしろ」

 所長が急かす、後、二つはオレの部屋と所長の部屋だ、後は空室。

「はいはい」

 所長の部屋に誘われるように入る。

「おぉ、悩んでるな?」

 所長も人が悪い、監視カメラで観察するとは……なんとなく悪役になった気分だ。

「どう?所長?」

 所長に近づき画面を除き見る、彼はひたすらしきりに辺りを気にしている、なにをしてるんだ?ふと一つ疑問が浮かんだ。

「所長、テストの内容ってどんな感じなんですか?」

「ああ、表の内容は単純な入試テストなんだが真の問題は裏のテストさ、あらかじめ俺が事務所事態に細工をしておいた、まっ、軽い悪戯程度だけどね」

 よく言う、あんたの悪戯は百鬼夜行が裸足で逃げ出すんだよ。

「お!動いたぞ!」

 画面の中の彼はしきりに辺りを見回す、ニヤニヤしながら画面を見る所長。

「さては時計を探しているな?」

「なんでさ」

「いやなに、問い6が『今何時』って質問なんだ」 

 所長は画面から目を離さなず言う、どうやら後半の問題はただのとんちだったようだ、そんな質問に何故考え込む必要がある?

「席を立ったぞ」

 不意に所長が声を上げる、ワタシも画面に目をやる、画面の彼は事務所を物色していた。

「はっはっは!」

 大声をあげて笑う所長

「笑ってる場合ですか?所長!」

 笑い話じゃない、この男は一体なにを考えているんだ?

「いや、すまない、彼の頭脳は大したものだと思ってね」

「どこが?」

 一体全体どこをどう見てその評価が出たのかがわからない、所長は画面にくぎ付けだ、ワタシも渋々画面を見る。

 

 彼はメモを取っていた。


 しきりに窓の外を眺めている。

 

 よく見ると机に置かれた腕時計を凝視している。


「その表情、どうやら答えは得たらしい」

 所長はワタシに目を遣り、軽くはにかんだ。

「ん?携帯を取り出したぞ?」

 思いもよらない事態にオレは画面に戻る。

「あっ」

 情けない声が出る、楽しやがった、コイツ。

「ほう、そう来るか……」

「何納得しているんですか、所長?」

 所長は満足そうに画面に見入っていた。


チーン


 軽快なチャイムの音が階下から響く、画面の中の彼の表情はよくわからないままだった。

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