第7話 刻まれた獅子 潜伏編
パトカーで追いかけてきた警察官達にこってりと絞られた私と鹿屋、しばらくすると望月警部がパトカーに乗って訪れた、鹿屋はあれだけスピード違反をしたというのに平然としている、こっちは気が気でない。
警部は黙って警察手帳を警察官に見せて事情を事細やかに説明してくれた、タイミングから予想するに鹿屋が廃墟を走りながら電話していたのは警部に連絡するためだったらしい。
「何てことしてくれたんだ、鹿屋!」
警部に怒声を浴びせられる鹿屋、かなり距離を置いているのにこちらにまで声が聞こえる。
一方の当の本人は悪びれる様子はないようだ。
「……………」
鹿屋が警部に耳打ちをする、こちらからは聞こえない。
「…何!本当か?」
「……声が大きいですよ、望月警部」
「ああ、すまん」
何やら話をしているようだ差し詰め仮設推論を警部に披露しているといった所だろう。
時間はもう8時を過ぎようとしていた、警察関係者の人々が慌ただしく働いている、鑑識らしき一人が警部に近づく。
「警部!やはりルミノール反応が出ました!」
ルミノール反応、そう血痕が出たのだ、やはり彼の言った通りの結果だ。
……ここで人が殺された、動機は?昼の現場と同じ状況だったのだろうか?
「じゃあ、後よろしく、次行くぞ、和戸君」
そういうと彼は廃墟を足早に立ち去った、私も警察関係者に礼を言ってから後を追った、彼はだだっ広い廃墟団地を迷うことなく突き進み、自分たちが入り込んだ入口に戻る、冷静に考えると彼はものの数分で殺人現場に使われた場所を発見しきったのだ、そして入口までたどり着く、未開の地のはずの土地をこうもあっさり歩きこなせるのはかなりの技術がいるはずだ。
「おい、ぼーっとするな、置いてくぞ」
「あっ、はい」
彼はいつの間にか車に乗り込んでいた、私も助手席に潜り込みベルトを締める。
「そういえば、次に行くってどこにいくんだ?」
「ああ、4人目の犠牲者が出るかもしれない」
「もしかして……続くのか!?陰惨な殺人が!」
「それも復讐殺人だ、私の推理が正しければ次の犯行現場はすぐそこだ」
そういうと彼は車のキーを回す、私は助手席に乗り込む、ふと後部座席に目をやるとそこにはやや大きなダンボール箱が複数あった。
「後ろのこれは?」
「ダンボールだ」
「違う、そうじゃない、中身のことだ」
「それも後で説明する、私のやることは、いや今行おうとしていることは犯人を確保するのではなく4番目の標的を救出することだ、それこそがこの用意周到な完全犯罪を計画した犯人を捕まえる最短ルートだ」
彼の言動、眼差しは確かな確信をもっていた、彼は私が描いた探偵像そのものであった。
「よし、着いた」
そうしている内に車はあっという間に目的地についたようだ。
「人が居ても声を上げるな、気配を消して昼間見た現場と同じ条件が整っている場所を探すんだ」
私は無言で頷いた、だがさっきと違い入口ではなく団地から向かって反対側、木々が生い茂りその向かい隣りも完全に森と化している。
「ぼさっとしてないで、早く手伝ってよ」
当の彼はそう言いながら後部座席を物色している、どうやらダンボールの中身を取り出そうとしているようだ、私も彼を手伝うために助手席をのぞき込む。
「なんだい?これ」
「ああ、カモフラージュって奴さ」
彼の手には深緑色のマット,小枝らしきものが備え付けられている。
「全部100均で揃えた」
彼の傑作に見入っていた私は驚愕した、私は100円均一の店を余り使用しない質だったので非常に興味を引いた、どのように作ったのだろう。
「聞きたいなら教えるけど?」
非常に興味を引かれたがひとまず、ここは我慢しよう、時間が勿体ない。
「いえ、大丈夫です」
「ふーん、あっそ」
彼は鼻を鳴らすと素っ気ない返事を返した。
「それ、車に被せておいて」
「は、はい」
車に被せてみて初めて理解できた、なるほどカモフラージュだ、簡易的な迷彩を100均だけで作り上げるとはやはり彼は生粋の探偵だと再確認できた。
「後は車で見張るだけ、なっ簡単だろ」
即席迷彩に私は無言で頷いた、彼も少し嬉しいようだ、口元が緩んでいる。
「わかったなら、さっさと乗った乗った」
ぶっきらぼうに彼は言う、彼の指示に従う。
車内に沈黙が続く、運転席側に座る彼はジッと廃墟の方を睨みつける。
「くしゅん」
車内とはいえもうじき冬なこともありひたすらに寒い、思わずクシャミをしてしまった。
「大丈夫か?ダンボールの中に毛布があるから寒いならそれ羽織れよ」
察してくれたらしい、部下を気遣う一面もあるようだ。
少し意識が遠のきそうになる、面接からかなりの長い時間が過ぎた昼食も夕食も抜いているのに気が付く、瞼が重い、ひたすらに眠い。
だが寝てはいけない、仮にも仕事中だ、何とかして眠気を吹き飛ばすためにひたすら今日起きた出来事を頭の中で整理した。
残酷極まりない亡骸
そもそも誓約書の一文はなんだったのか?
いや、違うあの警報は?そういえば彼は隣県の名前を呟いていた。
そう物思いに更けているとふとある点に気が付いた。
そして彼に、否
鹿屋 凛音に問いを投げかけた。
「アナタは……………」
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