第5話 刻まれた獅子 聞き込み編
「どうしたものか……」
事情聴取はいいが誰から話を聞けばいいかさっぱりわからない、そういえばあの被害者がどういう経緯で発見されたのだろう?もう少し情報が欲しいと思い立った私は廃墟の中の現場に戻った。
「警部さん!あの……」
「ん?ああ、和戸君か、鹿屋君はどうした?」
案の定、警部さんと部下らしき人たちはまだ現場にいた、私は懐のペンとメモを取り出す。
「第一発見者は誰何ですか?」
「ああ、地元の中学生だな、血濡れの猫を追っかけていたら発見したらしい」
警部は大きなため息を吐いた。
「怪我しとると思って後追ったらあの惨状だ、聞くこっちも気が滅入ったよ……」
その中学生が哀れでならない、だが私はメモに取った、もう少し情報が欲しい。
「そうですか……警部さん達の見立てでは被害者はどのような人物だと推測しますか?」
「それについてはもう判明しているな、被害者の名前は長丘正章だ、歳は31、事件現場から発見された免許証から確認が取れた」
「あの、他に遺留品はありましたか?よろしければ拝見したいのですが……」
「構わんが、免許証とそれが入っていた財布だけだがな」
ビニール袋に入れられた財布は被害者の血液でどす黒く染まっていた。
「免許証は財布の中にあって無事だったんだが、財布の端も斬れてるんだこれが」
被害者によほどの恨みがあったのだろう、だが何故バラバラにしたまま放置していったのだろうか免許証の写真に写っている人物は中肉中背で少し不機嫌そうな目つきとやや大きな鼻が特徴的だ。
「そういえば鹿屋の奴はどこにいった?一緒じゃないのか?」
言われるまで忘れていた、彼はどこにいったのだろう?
「まぁ、あいつはそういう所あるからな」
最期の言葉に引っかかりを感じた。
「そういうこととは?」
「新入りをこき使いすぎてかれこれ四人も辞めているからね、彼の悪癖とも言えるな」
4人も人が辞めているならかなりのスパルタな一面があるらしい。
「君も焦らずにゆっくりな、探偵も警察も過程こそを重視するもんだ」
「すみません、長々と時間を取らせてしまって……」
「気にするな、何か進展あったらすぐに教えてやるから」
私は警部に礼を言い、近くの住民への聞き込みから始めることにした、だが最後にもう一度現場を目に焼きつけてを置くことにした。
「…失礼します」
現場に一室は異臭と遺体はそのままであった、少し遅いとも思ったが私は手を合わせた。
「兄ちゃん優しいねぇ、でもこいつに同情する価値はねぇよ」
作業をしていた鑑識らしき人が手を止める。
「こいつはな、前科者だ、警部は探偵の兄ちゃんには見せなかっただろうが財布の中に覚せい剤を隠しもってやがった」
警部からはそんな話聞いた覚えがない。
「でも……こんな殺され方はあんまりだと思います」
「確かにな……」
鑑識は少し黙った。
「……まぁ、現場を見るのは構わんが荒らしたら承知せんからな」
「…はい」
現場を凝視すると被害者の下には灰色のビニールシートが敷かれていた、鑑識が用意したのだろうか?
数分足らずで現場にいるのが耐えられなくなり、廃墟団地の外に出た、2,3度息を吸って吐いた後、落ち着いて廃墟の辺りを見渡した、廃墟の方は植木の木が野ざらしにされていたのか郊外であったのが原因かひたすらに不気味極まりない、だが通りの向こう側は普通の街並みに見える、見える範囲にはコンビニが一件とその隣に交番、住宅の合間を縫って田畑がある、コンビニであれば何か事件に関する手がかりがあるかもしれない、私はまずコンビニに向かうことにした。
聞きなれた入店音が店内に響く、店員は見当たらない、奥で作業でもしているのだろうか?店員が出てくるまで暇つぶしをしておくべきか先に交番に向かうか迷った。
背後でもう一度入店音が響く。
「ちょっと、どいてくれます?」
振り向くとOL風の女性が立っていた。
「あ、すみません」
私は出入口から少し距離を置いた、女性は怪しそうな目つきでこちらを見ている。
「あの、唐突ですが貴方は近所にお住まいですか?」
女性は益々私を怪しんでいるようだ。
「なんなんですか?あなた?」
少し自分の素性を明かすのに躊躇いを感じたが彼が言った諺が私に勇気を与えてくれた。
「申し遅れました、私は探偵です」
「探偵!?」
彼女があっけに取られる。
「え、なになに、浮気調査とかですか?」
「すみません、守秘義務でどうしてもお答えできません、お時間がよろしければ最近この近くで起きた事を教えてほしいのですが……」
彼女が腕にしていた時計に目をやる。
「あっ、そういえば!」
急に彼女が声を上げる、何か思いだしたようだ。
「ちょうどこのコンビニで強盗があったわ!」
強盗事件があったらしい、というか何故忘れるのか?
「詳細を聞いてよろしいですか?」
「詳細もなにも私、その場にいたもの!」
「え、」
予想の斜め上だ、つい声が出てしまった。
「その場にいたんですか!?」
「だからそう言ってるじゃない」
「あ、失礼しました、その時のことを覚えていますか?」
私は上着のポケットからメモ帳とペンを出すのを忘れていたのに気づき急いで胸ポケットから出す。
「私はあの時確か、知り合いとコンビニで待ち合わせをしていて暇つぶしで雑誌を立ち読みしてたの」
「そしたら雨も降ってないのにレインコートを着た男が入ってきたの、なんでだろうと思ったらそいつが懐からカッターナイフを取り出したの!私は奥の方にいたから気づかなかったようで陳列棚で隠れて様子を見てたの、そしたら強盗におじさんが突っ込んだの、そのおじさん、隣の交番のお巡りさんで偶然居合わせたらしいの、あんまり冴えない印象だったけど最終的に犯人を投げ飛ばして取っちめたの!」
彼女の話によると逮捕劇があったらしい……というよりも彼女の話は早すぎて聞き取りずらい、それにしても何時起きたのだろう?
「その時間と日時はわかりますか?」
「うーん、ごめんなさい、正確な日時は思いだせないわ」
残念ながら彼女からはこれ以上聞き出せないようだ。
「あっ、そうだ」
ふと彼女が何か思い出したようだ。
「隣の交番に聞いてみたらどうですか?逮捕したお巡りさん、さっき交番で見かけたから」
吉報だ、さらに詳しいことがその人から聞けるぞ!
「ありがとうございます!」
彼女に深々と礼をする。
「どういたしまして、貴方もお仕事頑張ってくださいね」
話を始めた時よりかなり表情が明るくなっているのに気が付いた。
「はい、頑張ります」
そういうと私はコンビニを出て、隣の交番へと向かった、そこには彼女が挙げていた特徴の男性の駐在がいた、どうやら自転車でパトロールに向かおうとしているようだ。
「すみません、ちょっとお伺いしてもよろしいでしょうか」
駐在さんがこちらを見る、疑っているようだ。
「何者かね?君は」
「申し遅れました、私は和戸尊と申します、事情は守秘義務でどうしても教えられないのですが、あなたが逮捕したというコンビニ強盗についてできる限りで構わないので教えてもらえないでしょうか?」
駐在さんは少し考えこんだ後、口を開いた、私はメモとペンを構えた。
「……わかった、いいだろう、だが私もパトロールがあるから手短に話そう」
そういうと駐在さんは話を続けた。
「あの日、私は非番でね、晩酌のつまみを切らしているのに気づいてコンビニに寄ったんだ、そしたら黄色い雨合羽を着た青年が入ってきたんだ、私は人目見て怪しいと思った、雨も降っていないしね」
詳細を必至になりながらメモする。
「私は彼を注視しながら感づかれないように近づいた、するとだ、彼は懐から鋭利な刃物のようなモノを取り出したんだ、私は咄嗟に取り押さえたよ」
ここはだいたい、OL女性の言っていた通りだ。
「まあ、その正体には驚いたけどね」
「正体とは?」
「男だと思っていたんだけどその犯人は女性だったんだ、後に聞いた話だが苦学生だったらしい、少し同情もしたが仕事は仕事だからね」
少し話が脱線した。
「その時なにか怪しいものとか出来事とかありませんでしたか?」
「あ、そういえば、人ごみの中に一人怪しいやつがいたなぁ」
メモを書く手が止まる。
「彼女を連行する時近隣の人たちが見物に来ていてね、それにわき目もふらず通り過ぎた男がいたな、青っぽいジャージを着た大き目のスポーツバッグを背負っていたよ」
メモを取る。
「顔は見られましたか?」
「後ろ姿しか見てないな、私が覚えているのはそのくらいだ」
彼からの話は以上のようだ。
「お時間お取りしてすみません、どうもありがとうございました」
「どういたしまして」
最期の挨拶を済ませると彼は自転車に乗りパトロールへと出向いた、私はさらに多くの情報を調べるために聞き込みを続けた。
そして陽は沈んでいった。
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