すごいな!
「え、なんかすみません…。これ、人間に殺されたスライムの亡骸なんですか…全部…?」
「まあ、もちろん自然災害で死んだのもいるけど。だいたいは強いモンスターや人間に殺されるパターンが多いかな。強いスライムや逃げるのが得意なスライムもいるんだけど、だいたいのスライムは弱いからね。跡形もなく、木っ端みじんに殺されるようなケースも多くある。ここにあるみたいに墓にできるのはまだ良い方だよ。昔は墓もなかった」
うあわ~ますます切ない。なんだ、この話。なんだ、これ。ファンタジーの世界で、そんな切ない現実的な話聞きたくなかった~。
「というか、ちょっと疑問なんですけど、なんでスライムの亡骸を人間が数えてるんですか?私がこんな作業をやっていいんですか?」
「むしろ人間にやって欲しいんだ、僕としては。罪を数えて欲しいんだよね」
ああ、そういうエルフ君の顔は何とも言えない冷たい表情をしていました。目が笑ってません。青い目が冷たい色で私を見つめてきます。『仮面ライダーW』の決め台詞のようなことを真顔で言われると、結構つらいものがあるんですね。
「うわ~。ちょっと…。なんかすみません」
「ああ、ごめん。君を責めるつもりはなかったんだ。ただ、この地方はとにかく人手不足で。エルフもドワーフもほとんどいない。」
へえドワーフとかもいるんだ~ということ以上に、人手不足だから人間のバイト雇っているという理由が悲しい!ファンタジーな世界に来て、そんな悲しいリアルな事情聞きたくなかった!と一瞬でも思った自分を恥じます。
「だから人間界からバイトを雇ってるんだ。君は、この仕事はどうやって見つけたの?」
「え、なんか電柱に広告が貼ってあったから、なんか面白そうかな~っと思って」
そう言って私は自分のポケットに入れていた広告チラシを差し出しました。チラシはくしゃくしゃになってました。
『ファンタジーの世界で働く簡単アルバイト!応募資格:16歳以上の男女!経歴不問!時給500円!短時間でもOK!応募方法:夕刻、橋の下でお待ちください。※仕事内容を口外しない方に限ります』
チラシにはこう書かれていました。
「これ、すごいな!君、よくこれで応募しようと思ったね!胡散臭すぎるでしょ!エルフでも疑うわ、この内容!」
うわ~激しいツッコミきたな~、エルフってツッコミ入れるんだな!と驚きました。ツッコミ入れてる時のエルフ君はちょっと可愛かったですね。
「そもそもまず時給500円って!え、他にもっと時給いいバイトあるでしょ?」
うわ~エルフって時給について聞いてくるんだ~。私はなんか楽しくなりました。
「え、時給聞いてくるんですか?エルフの口から『時給500円』なんて言葉を聞けるとは思いませんでした。というか、これ日本語なんですけど、日本語読めるんですか?」
「ああ、僕は人間と接するのは慣れてるから日本語、英語、スペイン語は分かるんだ。今は中国語も勉強中」
「うわ~、さすが!エルフって頭良いんですね!」
「ちなみに今日本で人気なのは欅坂でしょ?僕も好き。僕の推しメンはぺーちゃん。彼女は、人間に化けてるエルフだと睨んでるんだよね」
おい、エルフって欅坂46まで知ってんのかよ!どんだけ物知りなんだよ!たしかにぺーちゃんこと渡辺梨加はエルフのごとき美しさだけれども!と私は心の中で盛大にツッコミました。
「私は、もなとりさが好きです。もなの猫の目とスタイル、りさの笑顔とスタイルに憧れます。私、背はそんなに高くないんで…。ってか、エルフって本当に物知りなんですね!まさか欅坂の話題で盛り上がれるとは思わなかったですよ!私は、あんまり頭良くなくて。愛想笑いもできないので接客もできず。だからやれるバイトが限られてるんです。500円もらえてファンタジーっぽい仕事できるならなんか面白そうかな~っと思って応募しました」
「応募って、これ夕刻、橋の下で待ってろとしか書いてないじゃん!これ、どこの橋か分からないし、夕刻ってアバウト過ぎない?」
「ああ、言われてみれば…。この広告が貼ってあった電柱の近くに橋があったのでそこかなって。夕刻っていうと、大体夕方5時頃かなって。だから夕方5時に橋の下にいたんです。そうしたらメガネの男の人が来て。特に面接もせずに、一方的に説明だけされて、ここに連れてこられました」
「君、よく来たね!君、やばいよ、それ!もし、メガネの人が犯罪者で君を連れ去ったらどうするつもりだったの?ここ、携帯も圏外でしょ?」
うわ、エルフって携帯も知ってるんだ。なんでも知ってるんだな~と思うのと同時に、はじめて携帯がつながるかどうか心配になりました。はい、ポケットから取り出した携帯は確かに圏外表示でした。もちろんネットもつながりません!
「あ、本当に圏外ですね。これ、やばいですね。はははっ」
なぜか私は笑ってしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます