200個
翌日、普通に学校に行って、放課後、家の近所の橋の下に行きました。昨日と同じようにタクシーが来ました。昨日と同じように、洋館に連れてこられてキメラさんが出迎えてくれます。
「はい、今日もよろしくお願いします。あと、このあとエルフ君が来るんで、彼に詳しいことは聞いて下さい」
へえ~エルフが来るんだ~と思いながら、私は昨日と同様に荒野で石の作業をはじめました。
石の情報記入と箱詰めを繰り返していると、遠くから何やら馬の蹄の音が聞こえてきました。どうやら石の塔がある方向から馬に乗って誰かがこちらにやってくるようです。馬に乗ってる人は、どうやらエルフっぽいですね。キメラさんが言っていたようにエルフさんが来ました。エルフさんは、私の前で馬を降りて語り掛けてきます。
「こんにちは、エルフです」
おい、エルフって自分で「こんにちは、エルフです」って自己紹介すんのかよ!そんな分かりやすい自己紹介すんのかよ!と思わず心の中でツッコミました。名を名乗らないのかよ!エルフっぽい名前ないのかよ!君の名は?君の名は?と思わず心の中で何度もツッコんでしまった自分を殴りたいです。
「ああ、はじめまして…。バイトで入った…人間です」
そう言って私はたどたどしい会釈をしました。自分の人生で「はじめまして、人間です」なんて挨拶をする機会があるとは思ってもみませんでした。いやどう見ても人間だろ!というツッコミはこの世界では来ないんですね。
「聞いてます。今日からですよね。よろしくお願いします。ああ、言われてるとは思うけど本名は名乗らなくていいんで」
名乗らなくていいのかよ!君の名は?って聞いてこないのかよ!こりゃダメだ、私達は瀧君と三葉にはなれない!とか一瞬でも思った自分を殴りたいです。
エルフ君は、耳がとがっていて金髪で青い目で、やせていて、本当にエルフそのものだな~という見た目でした。背は意外と高くないです。約160cmの私と同じくらいでした。
「キメラさんに言われたんで、石に書いてあることをノートに記入して箱詰めしてます」
「個数数えてる?ひと箱に200個入るんだけど」
「個数ですか。そう言えば数えてなかったな。数えますね」
「ああ、箱に全部入れ終えてからでいいんで。ちなみにスライムの墓を数えたことはある?」
「いや、ないです…。っていうか、これお墓だったんですか?こんな小さい掌サイズの石たちがお墓なんですか」
もしやとは思ってましたが、この石がどうやらお墓のようです。スライムの。
「うん、そうだよ。たくさんあるから数えてね。あ、数えた方は現代日本だと一体、二体が主流かな。一人、二人でも良いけど。一個、二個だと、ちょっと悲しいかも」
そう言って、エルフ君は微笑みました。なんとも見事な微笑でした。哀愁漂うその表情が妙に印象に残ります。
「このスライムのお墓って、普通の石に見えるんですけど、何か特殊な石なんですか?」
「ああ、スライムの残骸だよ」
ゲッ!と思って私は思わず手に持っていた石を放り投げてしまいました。残骸と言われると、そう見えるような…。ってかスライムの残骸って何?スライムって死骸が残るの?死んだら石になるの?そもそも肉体があるの?というか、なぜそんなスライムの死骸を扱う作業を人間にやらせるの?やらせていいの?いろいろな疑問が一気にわいてきました。
「はははっ!急に驚いてるね。まあ、普通の石と同じようなもんだと思ってくれていいよ。突然動き出すことはないから。ここらのスライムは死んで飛び散ると石になるんだ。もちろん、石にもならないくらい木っ端みじんに殺されるスライムもいるけどね。ここの石は死骸が残ったものが集められてる」
「ちょっとびっくりしました。まさか、自分が何気なく数えていた石がスライムの死骸だったなんて。いや、死骸と言っちゃなんか悪いな。遺体…?遺体って言えばいいのかな」
「ああ。そういうこと意識してくれる人なんだね。良かった。君の前にこの仕事やってた人も人間だったんだけど、こういう話しても特に何も感じてないようだったんで。死んだスライムに多少でも敬意を払ってくれると嬉しいかな」
「スライムの遺体だとして…。この荒野のいたるところにたくさん石が積んでありますけど、これが全部スライムの遺体なんですか?」
「ああ、そうだよ。ここにあるのもほんの一部。ほら、スライムっていうのは人間の世界でも弱いモンスターだというイメージがあるんでしょ?なんか、すぐ殺せる、誰でも簡単に殺せるイメージがあるらしいじゃん。だから、よく異世界、ああ君らがいる人間の世界から来た人間たちによくターゲットにされるんだよね。経験値が入った!とか言いながら殺されてる」
うわ~、なんだそれ切ない!ちょっとそんな話聞きたくなかった~。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます