500円
スラ吉ってなんだよ!思わず心の中でツッコミを入れました。私が笑っているのが分かったのでしょう。背後からキメラさんが声をかけます。
「読めますよね?現代日本語になってますよね?日本語のままでOKなので、そのままノートに記入していって下さい。今持っている石なら『9998976555番 スラ吉 2015年11月23日』と、見えるとおりに書いて下さい」
私は言われたとおりに羽ペンでノートに石に刻まれた文字を記入していきます。羽ペンって予想以上に書きにくい!なんか、こう、書きずらいんですよね。ボールペンに比べると、羽ペンってすぐ曲がるから字も曲がるんです。でも頑張って記入します。石に書かれた情報を記入したら、宝箱に入れていく。その繰り返し。大きな宝箱の中には仕切りが入っているので、石を分けるのに便利。
「そうそう、そういう感じで記入、箱詰めの繰り返し。簡単でしょ?では、それを繰り返して下さい。ノルマはないです。自分のペースで進めてもらって大丈夫です。では私はやることがあるんで」
そう言うとキメラさんは扉の中に入ってしまいました。この扉はどうなってるんでしょう。扉だけが宙に浮いてます。私は洋館にいたはずなんですが。扉だけこのどこか謎の荒野につながってるんですね。へえ、すごいな~。どういうトリックなのかな。CG?プロジェクションマッピング?まあ、なんでもいいか。
荒野にぽつんと放り出された私。広い荒野は風がびゅうびゅうと吹いています。やや肌寒い。足元の草は、普通の草に見えるんですが、これは本物ですかね。空は暗いです。ずっと曇って手不穏な天気。360度見渡してもずっと荒野。石の山があちこちにあります。あ、よく見ると遠くに石が塔みたいになってるところがあるなあ。あの塔は何だろう?あれもこの石なのかな。
自分の近くにある石の山を見ます。
『9,998,976,559番 スラ美 2015年11月23日』
『9,998,976,564番 スラべえ 2015年11月23日』
『9,998,976,566番 スラ次郎 2015年11月23日』
ああ、ここの石の山はみんな11月23日なんだなあ。11月23日といえば勤労感謝の日だなあと思いました。ってかなんだこの名前!適当過ぎるだろ、もっと考えてやれ!なんで日本人の名前風なんだ、ああ設定が甘いな、とか余計なことまで考えてしまいました。
石の情報をノートに書く、箱に入れる。この作業を繰り返し、箱が半分くらい埋まったところでキメラさんが声をかけてきました。
「お疲れ様です。初日なんでもう帰って大丈夫ですよ。忘れ物がないよう気をつけて下さい」
忘れ物も何も特にカバンも持ってきてないしな、と思いました。
「もう終わりなんですか?」
「はい。今日は最初なんで。終了で良いです」
私はキメラさんのあとに続き、洋館に戻りました。洋館を出ると、門のところにタクシーが停まってました。
「お疲れ様でした。また次回」
そう言ってキメラさんが手をふってくれました。私はあっけにとられたまま、タクシーに乗り込みます。
「初日、どうでしたか?」
「ああ、なんというか。ファンタジーっぽいところでしたね。ちょっと寂しい感じの荒野で石を箱に入れました。こういうお仕事なんですか?」
「そうです。簡単でしょう?次回は、明日の午後17時から20時でいいでしょうか?」
「ああ、大丈夫です。これ休みとか次がいつとか決まってるんですか?」
「こちらが入ってもらいたい時間帯を言います。なのでOKかそうでないかだけ話して下さい。では、今日のバイト代はこちらです」
そう言ってメガネの人は500円玉を渡してきました。
「お疲れ様でした。では今日はこれにて」
そう言われて、タクシーを降ろされました。降ろされたのは近所にある橋の下でした。タクシーはそのまま去っていき、私はあっけにとられながら帰宅します。
「何だったんだ、あの荒野は…」
そんなことを考えながら家に帰りました。その日は普通にお風呂に入って、テレビとネット見て寝ました。
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