荒野にて
廊下の奥に大きな扉がありました。わあ、これ本当にテーマパークにある感じの、いかにもな扉だ~ってちょっと感動しましたね。古くて、こう、なんかそれっぽい感じの装飾がゴテゴテしてます。金色の取っ手をつかんで、重い扉を開きました。
部屋には獣の顔をした人がいました。ミュージカル『キャッツ』とか実写版『美女と野獣』に出てきそうな特殊メイクです。特殊メイクすごいなー。ちょっとわくわくしました。猫のようなひげとライオンのようなたてがみをもったおじさんです。ちょっと渋い顔をしてますね。
「はじめまして。見てのとおりのキメラです。よろしく」
ああ、キメラだったんだこの人、と思いました。たしかに蛇の尻尾らしきものがズボンの後ろの方に見えます。へえ、キメラってこんな感じなんですね。
「仕事は多岐にわたりますが、まあ誰でもできるので安心してください。くれぐれもここで見たことは口外しないで下さい。それが一番大事なことです」
キメラのおじさんは丁寧な人でした。この部屋はすごく広いんですが、やたらたくさんの本が置かれています。どんな書類なのか見当もつきません。日本語で「採用の心得」とか「就活戦線」とか書いてある本も見えますが、よく分からない文字で書いてある本もたくさんあります。へえ、凝ってるな~。さすがテーマパーク。
「部屋の中の資料が珍しいですか。そうでしょうね。あんまり見ないで下さい。あと触らないように。仕事先は、う~ん、え~っと、そうだな、最初はやっぱり墓だよな」
墓?墓と言いましたか、このキメラおじさん。なんか嫌な予感だな。大丈夫でしょうか。
「墓に案内します。この部屋の奥のほうの扉は色々な場所に通じているんで。私が扉の魔法陣に手をかざせば希望する場所にいけるんですよ。はい、墓!」
そう言って、キメラさんは部屋の奥にある小さな扉に手をかざしました。扉に書かれた魔法陣が光ります。おおー本格的だな~と、私はわくわくしました。
小さな扉がキメラさんによって開かれます。扉の先にあったのは荒野。すごく風がびゅうびゅうと吹きすさんでいます。うわー、なんかマジで異世界っぽいところに来たー!これ、さっきの外と違うし、どういう構造なんだろ?荒野に見えるセットなのかな?とか色々考えていると、キメラさんがこっちを見ます。
「ああ、珍しいですか。最初はちょっと驚きますよね。まあすぐ慣れるんで。この荒野は墓場です。たくさん石が積まれてますよね。この石にそれぞれ番号と名前と日付が刻んであります。それをこのノートに記入していって下さい。ね、簡単でしょう?」
そう言ってほほえむキメラさん。うん、ちょっと可愛いと思いました。荒野でキメラに渡されたノートは古い紙でできていました。おお、なんか赤いブックカバーがついてて、ノートと言っても中は無地で、それっぽい、ファンタジーっぽいな~と感動する私。ノートと一緒についているペンも羽ペンですよ。これ、こういうところもファンタジーっぽいなあ。
「で、ノートに記入していった石は日付ごとに箱に入れていって下さい。箱はこれです」
そう示された策にある箱は古ぼけた宝箱っぽい箱でした。うわー、こういうところもファンタジーっぽいなあ。広い荒野のところどころに石の山。そして宝箱があちこちに散在しています。宝箱もなんかぼろぼろだなあ。
「箱はたくさんあるんで、埋まったらどんどん新しい箱に詰めていって下さい。はい、じゃあ早速やってみて下さい」
ああ、さっそく始めるみたいです。私は、とりあえず目についた石の山から石を一つ拾いました。石にはこう刻まれてました。
『9,998,976,555番 スラ吉 2015年11月23日』
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