スライムの墓を数えたことはある?
快亭木魚
タクシー内にて
「いやー『君の名は。』みたいなことは現実にはないよね」
私は昼間の教室で思わずそう独り言をつぶやいてしまう程度には、友達のいない人間です。まったく昼間の太陽がまぶしすぎる。私にはキラキラした青春なんてのは似合わないんだろうなと、16歳の時点で気づいてます。三葉のように明るくほがらかになれませんし、瀧君のように一生懸命な人にも出会えません。たぶんもう、前前前世からつんでます、私の人生。
家が貧乏なので、バイトして学費稼がないといけないんですが、高校生ができるバイトってあんまりないんです。私は不愛想なんで接客とかできないんです、ほんと。「いらっしゃいませー!」って笑顔で言えるコミュ力あったら教室の隅で悲しい独り言なんか言いませんよ。
そんな私にとって、電柱に貼ってあった謎のバイト募集広告はそれなりに魅力だったのです。
『ファンタジーの世界で働く簡単アルバイト!応募資格:16歳以上の男女!経歴不問!時給500円!短時間でもOK!応募方法:夕刻、橋の下でお待ちください。※仕事内容を口外しない方に限ります』
あとから思い返すと怪しさ満載なんですが、私はなんとなくその明朝体の文字広告に惹かれてしまったんですよね。
ためしに夕方5時に橋のあたりに立ってみました。当然私は帰宅部なんで、なんとなく近所の橋の下で一人たたずむ時間があるわけです。つまんねー青春ですわ、言われなくても分かってます!
橋の下でぼけーっとしてたらですね。なんか普通のタクシーがやってきました。タクシーが私の目の前で停まり、中からサラリーマンっぽい人が出てきます。まあ!予想以上にすごいきちんとした格好のサラリーマンっぽい人が出てきたので驚いています。なんでしょう、これ、あんた明らかにファンタジーじゃないよね、リアリストだよねっていう見た目です。
「応募の方ですね。では就業場所にご案内しますので、どうぞタクシーに乗って下さい」
見た目がちゃんとした感じの人だと思わず信じてしまうんですよね、私は普通に何の疑問も抱かずにタクシーに乗りました。
「まあ、誰にもでもできる日帰りの仕事なんで安心して下さい」
メガネのサラリーマン風の男性はタクシーの中でそう言いました。
「えっと、これどういう感じの仕事なんですか?」
私は、思わず聞いてしまいます。この謎のメガネマンに。
「私は16歳で特に何のとりえもない女なんですけど、大丈夫なんですか?」
ああ自分で自分のこと何のとりえもないって言うの嫌だなと思いながら、メガネの人に聞いてみました。
「ああ、大丈夫ですよ」
「これ、なんかファンタジーの世界で働く仕事って聞いてたんですが、どういうことやるんですか?というか、観光気分で行こうと思ってたんですが、なんか危険に巻き込まれたりしませんか?ファンタジーという名のテーマパークなんじゃないんですか?」
「テーマパーク…うん、うん、いいですよ!そんなイメージでいて下さい。ほんと、日帰りで気楽にできる仕事っていうイメージを持ってもらいたいんで。うちらは仲介業者なんで。仕事内容は行って覚えて下さい。誰でもできます。簡単です」
「簡単です」と言われたら、簡単なんだと思いますよね。だから私はこの仕事を選んだんです。メガネの男性は、タクシーの中で私にこんな感じで説明してくれました。
タクシーでトンネル抜けました。長い長いトンネルを抜けた先に小さな洋館がありました。古くて人が住んでいるとは思えないような雰囲気でした。ちょっと不気味です。
メガネの男性に連れられて、洋館に入ります。
「では、私はここまでの案内になります。この扉の先の雇用主の方がいます。なんというかファンタジーな恰好しているので、ちょっと驚くかもしれませんが、すごく良い人なんで安心して下さい。退社時間になったら迎えに来ますので。では、がんばって」
ああ、このメガネの人はここまでなのか。薄暗い洋館の廊下でメガネの男の人と別れます。
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