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もう日を跨いだので正確に言えば昨日、同じ地域で占い屋を営むミクリさんに突然言われたのだ。
『水難の相が出てる。気を付けて』と。
正直信じてはいなかった。
そうミクリさんに言われてすぐに、タバコ屋のばーちゃんに水を掛けられてもただの偶然だと思ったし、蛇口から水が噴き出たのもそうだと思った。けど、グラスを落として足が水浸しになってからやっぱりおかしいかな、とか思っていたら水の流れ弾が当たった訳で。
うーん、やっぱり、とも言わずもがな。素晴らしく当たっている。俺は今日、水難の相が墨汁で描いたのかってくらい濃いのだろうか。
「花菱くん風邪引いたの?」
「うわっ」
鼻をかんでからカウンターに出ると同時に喋りかけられた。
「ミクリさん、いつの間に」
そこにいたのは長い髪のうっすらそこだけ暗い色のオーラが漂っているかのような女性だった。相変わらず黒い服が良く似合う占い師のミクリさん。
「こんばんは」
無表情の抑揚のない声で挨拶をしてくれた。店に来るのは久しぶりだ。外で見掛けるのはもっとレアだけど。
「今日は大丈夫でしたか」
「え」
「言ったでしょう、水難の相が出ているって」
それから「ナイト・シェードを」とオーダーを続けた。
ミクリさんは何てこと無い表情だ。
「大丈夫じゃなかったですよ」
オーダー通りにバックバーから酒をチョイスしながら話す。
「大当たりでした」
「当たり前じゃないですか」
「わたし占い師ですから」と当たり前の様に言う。まぁ当たり前なんだけども。
「なんで私に水難の相が出てるってわかったんですか?」
シェークしながら訊くと、ミクリさんは髪を梳きながら答える。
「なんでって、そう言っていたからです」
「そう言っていた?」
一体誰が?
「花菱さんに付いている人」
「えっ」
「気を付けて」
「わっ!」
次の瞬間にはまたスラックスが冷たくなっていた。視線を上げると、顔が青くなった斉藤君が。
「マスター、すみませんんん・・・」
その手には半分ほどしかミネラルウォーターが入っていないピッチャー。もう半分は俺のスラックスが飲んでしまったらしい。
「ほらね」
「まじですか」
「私を信じてください」
「・・・はい」
ミクリさん、恐るべし。
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