ただそれだけ。

 冬の空気は冷たくて、吸い込むと肺腑の奥まで染み渡るようで心地よかった。

 強風が一瞬吹いて、小さく身震いをする。

 普段より少しだけ、寒いような気がした。


 ポケットに入っていた携帯を取り出し、電話画面を開く。





「あ、もしもし」


 期待してきた通りの声が聞こえてきた。



「……あー、何があったってわけじゃないんだけどさ」


 ただ、無性に。

 どうしようもなく。


「会いたいって思ったから」

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