マフラー

マフラーを忘れた。手袋も忘れた。遅刻ギリギリだったし、その辺に放っておいた自分が悪い。走ってて暑かったのもあり、気づいたのは帰り際だった。

「まじかよ……」

俺は今日の軽装備を恨み、我慢して帰ろうかと諦めた。しょうがない。自分が悪い。

「あれ、その格好寒くないの?」

不意に呼び止められた。

その子はモコモコのマフラーにダッフルコート、手袋と重装備だった。

「ん、あー……いや、今朝忙しくてさ」

寝坊して遅刻しかけた、なんて格好悪いことを言えるわけがない。

「じゃ、これ貸してあげる」

「え?」

彼女は自分のモコモコのマフラーを脱ぎ、俺にばさっと被せた。……ふわりと、女の子の香りがした。

「多分今日はこれで十分だから。じゃあ、また明日」

バイバイ、と帰ってしまった。これは……えっと……なんというか……恥ずかしい。

呆然としていたが、冷たい風とともに我に帰る。友人に見られるのだけは防ぎたい。……よりによって好きな子に、なんて。


かっこよくてこっちがときめくじゃないか。



************


彼女は友人と一緒に帰りながら、今日すごく寒いねと、わらっていた。

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