67 電子戦の天才
驚いたことに、呼び出しを受けたのはタケルだけではなかった。
「なぜ、呼び出されたのか、わかりますか?ふたりとも」
執務机の向こうから、アレグレッグ
あまり敬意の感じられない返答にアレグレックは眉を顰めたが、彼は叱責せずに質問を続けた。
「ブライス教練生、呼び出された理由が思いつくなら提示しなさい」
「えー、ここのシステムに侵入したから……だと思います」
ブライスは、電子戦対応能力に優れていた。電子戦の授業でも、群を抜いて高い能力をしめしていた。その代わり、体力面ではとても苦労しているようだ。
「ふむ。不正アクセスは認めるのだな?」
アレグレッグ
「システムには侵入しましたが、不正ではありません。ボナー教官の言葉に従っただけです」
ボナー教官とは、電子戦やサイバー技術を教えている教官だ。
「彼女が侵入を推奨するとは思えないが……確認してみよう」
「ボナーです」立体映像の女性教官が、
「ボナー教官。ブライス
「いえ、
「うむ。
「そのように思われます」
「わかった」
アレグレッグ
「さて。君の曲解が意図的なものかそうでないのかはわからん。だが、システムへの侵入は問題の半分でしかない。残りの半分は、許可されていない機密事項へのアクセスを試みたことだ」そこで彼はタケルに視線を向ける。
「私はエノカミ
予想していなかった糾弾に、タケルもブライスも驚きを隠せない。
「
ブライスよりも先にタケルが声を上げた。
「発言を許可する」
「私にはまったく身に覚えがありません。私にはそのスキルがありません」
アレグレッグが、椅子の背もたれに身体を預けると、椅子が小さな音を立てる。彼の目は、タケルに注がれたままだ。
「ブライス
ブライスがどんな情報にアクセスしようとしたのか、タケルには判らないが、帝国にとってよほど重要な情報なのだろう。通常のレベルよりも高度なセキュリティに守られていたに違いない。
「だが、ブライス
ブライスが目を見開いてタケルを見た。確かにあの情報を探しているうちに、偶然ヒントとなる痕跡を見つけ、それをトレースした。あれがタケルの仕業だったとは。もしあれは偶然ではなく、意図して用意された罠だったのか?
しかし、驚いているのはタケルも同じだった。
「そんな……ぼく……私には身に覚えがありません」
アレグレッグ
「さぁ、二人とも、私が納得できる申し開きをしてみたまえ。できないのであれば……」
「
突然の侵入者によって遮られたからだ。
◇
ブライスは、子供の頃から電子機器との相性が良かった。構造や仕組みを理解しなくても、電子の流れを追うことができた。他人にとってそれは怪しいことらしく、幼くして彼女は“ホントのことは話さない”スキルを身につけた。
働ける年齢になって受けた適性試験で、サイバー技術への適性が認められたことも、ブライスにとっては当たり前のことだった。そして、生まれ故郷ガルダント星系の星系軍へと入隊した。そこで彼女は、電子戦の天才と呼ばれるようになる。
ブラハリー72に来たのは、トワ帝国軍への転入とさらなるステップアップのためだ。出世そのものには興味はないが、階級が上がれば扱える機器も増える。より楽しく遊べるのだ。そう、彼女にとって電子機器は遊び相手、軍はおもちゃを用意してくれるスポンサーだった。
施設に到着して最初に取りかかったのは、自分を守るためのセキュリティ構築と情報収集だった。施設のシステムに侵入することなど、特に苦労することもなかった。システム内のデータから、ギューとルーに関する情報を得た。二人の過去も、それに対する評価も把握した。
ところが、タケルに関してだけは判らなかった。いや、上っ面のスカスカな情報はすぐに見つけたのだが、過去、例えば出身星系や入隊までの経緯に関しては、まったくの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます