第五話 着せられた濡れ衣
ハンマーを下ろし引き金を引く。ライフルよりも小さな破裂音と同時に飛び出す弾丸。それは一筋の光線となりジリアンの腹部にめり込んだ。衝撃が伝わり数秒後にどす黒い穴から血が噴き出した。
「・・・・・・あ・・・・・・」
ふらりと傾き目線を上に向けたまま再びステージに倒れた。
「リーダー、そろそろ警備隊が来る頃合いです!」
「そうか、ならさっさと行くぞ。長居は無用だ。」
「御意!」
目的を果たした暗殺者達は屋根に飛び上がり退却を始める。残ったジャンは倒れているエリーネに近寄りジリアンを撃ったピストルを彼女の右手に握らせた。
「運の悪い少女だ、だが人生にはスリルがあった方がいいだろう?」
そう言い残し彼自身もその場から立ち去って行った。
「ジャン・・・・・・」
それから1分も経たないうちにライフルで武装した大勢の警備隊が到着した。ジリアンと町長とその娘の救助を優先に広場に立ち入る。ぐちゃぐちゃになった人間の盛り合わせと大量の血の池を目の当たりにする。生臭い臭いと火薬の臭いが混ざった香りが重度の頭痛を引き起こす。目の前の地獄絵図を見て数人がさっき食べた昼食を吐き戻した。
「お前達はジリアン氏や町長の無事を確かめてくれ!・・・・・・くそっ、こんな大惨事は初めてだ!生存者はいないのか!?」
警備隊長が言った。彼は従軍経験もあり職業柄このような光景は見慣れていたがやはり気分を悪くする。口を押さえ真っ赤な水たまりを踏みつけながらあたりを見回す。まるで生きているかのような屍と目が合う。まだ若い女性だった。哀れみの目で見下ろすと顔に手を向け静かに目蓋を閉ざす。
「兵隊も派遣してもらうべきだったな・・・・・・おぇ、ミートパスタなんて食うんじゃなかった・・・・・・!」
「隊長!ジリアン氏を見つけました!腹部を負傷してますがまだ息があります!」
「そうか!早く近くの病院に搬送するんだ!絶対に死なせるな!」
数人の警察官がステージで倒れていた3人を担架に乗せ搬送する。
「うう・・・・・・」
エリーネは消えかけていた意識をはっきりと取り戻した。まだ身体中が痛むが吹き飛ばされたばかりの頃より少しは楽になった。息を吐きながらピストルを握り締めたままふらふらと立ち上がる。
「おい!生存者がいるぞ!」
警官の1人が叫んだ。隊員達は声がした方向へ視線を向ける。だが・・・・・・
「待て!」
隊長がより大きな声で叫び駆け付けようとした部下を止める。ホルダーからピストルを取り出しそれを生存者に向けた。
「その少女から離れろ!銃を持ってる!」
それを聞き焦った警備隊のほとんどが同じくライフルを構えた。エリーネも今の状況に気づく。怯えた目で銃口を見つめる。
「ここを襲撃した者の一味でしょうか?」
「ああ、銃を持ってるし最前列にいたんだ。間違いないだろう。」
「彼女1人だけでここまでやったのか?」
「まさか、爆弾魔には見えない。もっと仲間がいたはずだ。」
「・・・・・・私じゃない・・・・・・!・・・・・・私は何もしてない!」
エリーネはそう訴えた。無論、信じてもらえるわけがなかった。たった今恋人にピストルを握らされた意味を理解した。すぐにでも引き金を引かれ蜂の巣にされそうな状況に身体を震わせる。
「銃を捨てて手を上げろ!」
「話を聞いて!私ははめられたの!」
「いいから来い!」
エリーネは彼らの命令には素直に従わなかった。真逆の方向へ一直線に走る。肉片と水たまりを踏みつけ足を真っ赤に染めながら逃げ出した。血の滑りと奥底の痛みでバランスを崩す。
「逃げるぞ!発砲許可を!」
「待て!撃つな!」
隊長がピストルを構えながら叫んだ。すぐにライフルを下ろせと命令を下した。
「捕らえるんだ!襲撃者の仲間なら何か知っているはずだ!」
エリーネは街中を走り続ける。血の足跡を残しながら。振り向きもせず息切れしても決して止まらなかった。ピストルを握ったままふらふらと障害物をぶつかり倒す。目の前だけを見てまわりの目など気にも留めず空いた道を駆け抜ける。
何でこんな事になってしまったのか?それすら考えていられる余裕すらない。どこに行けばいいかもわからない状態に頭はますます混乱する。それなのに家にだけは行ってはいけないという事だけははっきりしていた。すぐ後ろに警備隊は来ていた。怪我を負った子供相手でも容赦なく追い続ける。
「止まれ!止まらないと撃つぞ!」
ライフルを持った男の集団に住民達は悲鳴を上げた。すぐに道を開け後ろから地べたに倒れ込む。その時、ズドンッ!と1発の銃声が商店街に響いた。追手の誰かが発砲した。
「きゃああああ!」 「ひああああ!」
住民達は再び悲鳴を上げ頭を抱え脇道でしゃがみ込む。売り物の鶏がかごの中で騒ぎ鳴きわめく。羽がふわふわと埃みたいに飛び散る。エリーネ自身も驚愕し数秒間頭を軽く下げたが変わらないスピードで逃走を続ける。
「はあ・・・・・・!はあ・・・・・・!」
体力のない身体に疲労が溜まりそれは痛みへと変わる。限界が来たのだ。意識ももうろうとし始め目の前も黒くなってきた。動きも遅くなり脚の感覚もほとんどなくなっていた。
よろよろと傾きエリーネは吸い込まれるように脇道に入る。
「逃すな!」
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