第四話 演説会場の襲撃
(こうするしかないんだ、許してくれ!)
片腕にこれ以上ないほどの力を込め正面に投げつける。銀色の懐中時計はゆっくりとチェーンと共に回転しながら前の列の上を通過していく。そしてステージに届き見事狙い通りの人物の胸部に命中した。
「撃て。」
暗殺者が言った。
「痛っ!」
突然何かが当たりその弾みでジリアンは後ろへ倒れ込む。民衆は驚き拍手をやめ静まり返る。
「・・・・・・誰だ!?ジリアン氏に何を・・・・・・・・・・・・!!」
町長が怒鳴った同じタイミングで広場で破裂音が響いた。緑の光線が物凄い速さ発射された。それはステージの上にいた人間に命中した。町長の左腕が吹き飛び宙を舞った。光はそのまま突き進み1人の記者の脳をカメラごと貫通した。民衆の叫び声が聞こえたのはその後だった。
ここにいる全員、何が起きたのか分からなかった。理解したのは数秒後の事だった。エリーネも銃声と目の前の光景に凍り付いた。ただ、町長の左腕から流れ出る真っ赤な液体を眺めていた。
「暗殺だー!」
誰かが叫んだ。歓喜に満ちた広場は恐怖と混乱の地獄と化し人々はその場から逃げ出そうと前の列の人間を押し倒し踏みつける。皆自分の命を落としたくないと必死に人を掻き分け我先にとステージから遠ざかる。その時だった。
広場が爆発した。暗殺者がいくつかの爆弾を投げ入れたのだ。大勢の人間とその肉片が飛び散った。警備隊のほとんども不意を突かれ抵抗もできぬまま無残に吹き飛んだ。血の雨が降り噴水の水を深紅に染め上げ虐殺そのものといえる修羅場へと変えてしまった。
エリーネは爆風で身体を強く打ち付けあまりの苦痛に動けなくなった。逃げられた人間はいない、犠牲になったのは大人だけじゃなかった。3人の人間が倒れているステージのまわりには原形を留めていない死体で溢れていた。
暗殺者達は広場へと飛び降り生肉が散乱する地面に着地した。今度はピストルを取り出し致命傷を負った生存者達の息の根を止める。血に塗れ虫の息の人間を虫けらのように頭を撃ち抜いていく。
「う・・・・・・うう・・・・・・」
全身の痛みと恐怖でエリーネの震えは止まらない。血の臭いと爆音による耳鳴りで彼女の心臓は激しく動く。死んだふりさえできず倒れているだけで何も出来なかった。
背の高い暗殺者がエリーネを見つけ銃口を下に向けながらゆっくりと歩いてくる。
「ひ、ひいっ・・・・・・!」
「心配するな、嬲り殺しは好きじゃない。一瞬で楽にしてやる。」
面倒臭そうに腕を傾け銃口を向ける。自動拳銃のスライドを動かしコッキングする。
「待て、チャールズ。」
今の一声で引きかけていたトリガーから指を離す。見た目だけでは分からないがリーダーらしき暗殺者がやって来た。まかれた包帯の隙間から見える鋭い目つき、そいつは俺に殺らせろと言いたそうに自動拳銃の向きをずらす。
「何故止めるのです?目撃者ですよ?」
「『あの方』の計画を忘れてはいけない。お前は下がっていい。」
「・・・・・・御意。」
そいつは跪き血の雨で顔が真っ赤に染まったエリーネを見た。しばらく眺め最後に2回頷いた。何を思ったのか包帯を掴み仮面を取り外すように脱いだ。
「!」
エリーネは目を開き彼の素顔を見て心の中で唖然とした。そしてようやく涙を流した。痛みが引かない身体に衝撃が走る。人間なら誰しもする当然の反応だった。何故ならその男は
(ジャン・・・・・・!どうして・・・・・・!?)
頭部の包帯の中身は知人であった。ジャン=モーリス・アルドゥアン・・・・・・幼馴染の関係を通り越した恋人だった。1年前にフランスに帰国した時からずっとエリーネの元を訪れずにいた。何度も手紙を書いたが返事は帰ってこなかった。
最初は事故か事件に巻き込まれたと思い少し不安になった。他の女と浮気したのかと考えたらますます不安になった。エリーネは心配で1週間、涙が止まない夜を過ごした。恋人は生きていた。・・・・・・だが、こんな形で再会してしまうとは・・・・・・
ジャンは自分が見つめている相手が恋仲にまでなった幼馴染だと気づいてはいない様子だった。かつての面影は見当たらず顔が同じだけの全くの別人と化している。あんなにも紳士的で邪悪な行いを誰よりも嫌っていた男が何故?エリーネは考えたが覗けない人の中身を知る事など出来るはずもなかった。
「うう・・・・・・」
誰かが苦しそうな声を上げ起き上がった。ジリアンだった。怪我を負いまだ倒れている町長とその娘の間で残った力を振り絞る。暗殺者達は彼女を見た。全員が銃口を向ける。
「撃つな。」
ジャンがそう言いながらエリーネの背中の服を掴み無理やり引っ張り上げる。足に力が入らない彼女を引きずりながらステージの近くへ向かった。
「その子を・・・・・・離しなさい・・・・・・!」
ジリアンが叫びにならない言葉を発する。それを無視する。すぐに手前まで来るとエリーネを乱暴に投げ捨てる。
「お前には我々の身代わりとなってもらう。」
ジャンは腰のホルダーからリボルバー拳銃を取り出しそのまま上に向けた。それで仲間を注目させ視線を向けさせる。悪魔のような笑みを浮かべ言った。
「さあ、終焉の宴の始まりだ。」
それが何を意味しているのか分からなかった。その場にいる犯罪者達を覗いての話だが・・・・・・
「あなた達は何者・・・・・・!?ドイツ帝国の・・・・・・」
「我々はどこの国の味方でもない。主に従い味方は兄弟だけ・・・・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます