第6話ルーブル紙幣

 これも、入院中に、同じ病棟の患者さんから聞いた話です。

 もうご高齢のご婦人でしたが、満州で生まれて、小学生くらいの時に引き上げてきたんだそうです。

 お父さんが、大陸に渡ってから、満鉄の社員になった人だと言っていました。

 引き上げとなる前に、なんらかの理由でお母さんと幼い弟を亡くされた。このあたりの事情は口を濁されて、聞いていません。

 ハルピンに引き上げてきた時に、一度、お父さんから妹さんと一緒にはぐれてしまったのだそうです。

 まだ幼い姉妹です。

 どこへ行ったら良いかもわからず、おなかはすいてくるし、ほんとに悲しかった。

 ところで当時の満州は、日本人もいれば支那人もいるし、ロシア人もいて、どの国の通貨も使えたのだそうです。

 おなかがすいたなあ、と思いながら、妹さんの手を引いてとぼとぼと歩いていると、ふと呼ばれたような気がして、上を見上げた。

 するとどうしたことか、梢から、はらはらとルーブル紙幣が何枚か落ちてきたのだと。

 樹の枝には誰もいないし、何もない。

 お金を落とした様子の人もいない。

 急いでその紙幣を集めると、妹さんの手を引いて、近くに店を開いていた支那人の店先に飛び込み、そのルブリャー(数ルーブル)で餃子を頼み、おなかを充たす事ができたのだそうです。

 きっと、このお金は亡くなったお母さんがくれたのだ。

 その方は今でも、そのように信じていると言っていました。

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