第5話笑い声

 私が大学病院に入院していた時の話。

 割り当てられたところは、一番新しい病棟で、南に面しており、しかも広い窓があって(ちなみに両側の狭い部分は開けられるけど、嵌め殺しです)、冬でも晴れてさえいれば暑いくらいという素晴らしいとこでした。

 基本4人部屋。洗面台とトイレが各室についているし、それとは別に洗面所もある。廊下は広いし明るいし、言うことのない部屋です。

 私は霊能などはからっきしなくて、ここに長く入院していましたが、別段金縛りにもあわなければ怪しいものも見た事はないのですが……。

 ですが、一度だけ。

 この明るく暑いくらいの病室で、同室の人たちと話をしてました。

 私のベッドは窓側。

 つまり、ベッドを背中にしていれば、背後には人が立ちようがないという位置です。

 楽しくしゃべっていて、ふと誰もが言葉を発していない、そんな瞬間ってありますよね。

 まさしくそういうタイミングでした。

 私の背後で、

「うふふっ」

 と笑う声があったんです。

 若い女性というか、多分、中学生か、もしかしたら小学校高学年かな、という感じの。

「え?」

 と思って振り向きました。

 ……誰もいるはずがない。

 ……誰もいない。

 ぽかぽかと陽に照らされた明るい部屋があり、窓には何も怪しいものは映り込んでいませんでした。

 同じ病棟に子供も少女も入院はしていません。

 無菌病棟なので、実は基本的に、見舞客でも子供はご遠慮下さいというところです。

 もしいるとしたら、ああこの人もう危ないねーという患者さんがいたとして、ご臨終前に顔を見せたいというそんな場合くらいでしょうか。

 あの笑い声。

 なんとなく、楽しくしゃべっているから、自分も楽しくなって思わず笑っちゃった。

 そんな感じの笑い声でした。


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