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 僕が声を出した次の瞬間には、火津木さんの左手を覆っていた真っ白な毛は跡形もなく消え去っていた。

「……わかってもらえたと思いますが、私は人間ではないんです」

「……はい、よくわかりました」

 火津木さんを一目見てトカゲだと判断したあの感覚が、ただの錯覚でなかったとわかり安堵する。だがそもそも、僕はトカゲに対するあんな鋭い感覚は持ち合わせていなかったはずだ。

(やっぱり、真奈さんにつきまとっていたトカゲを殺した時のことが引き金か)

 とはいえトカゲに対する感覚が鋭くなるのはむしろプラスだ。このことに関しては当分様子見で問題ないだろう。

「火津木さん、でしたよね? あなたはどうして人間として生活をしているんですか? それと――失礼ですが、あなたが流谷さんを操っているわけではないんですね?」

 僕の言葉に二人の顔が引きつるが、それ以上の反応はなかった。自分達は怒れる立場にはないと思ったのだろうか。

「私は彼を――敦史を操ってはいません。そもそも、そんな力は持っていないんです」

「飽くまでも人間として交際していると?」

「はい。彼は大学の同級生なんです」

「――火津木さん、あなたはどれだけの期間、人間として生活しているんですか?」

 火津木さんは少しの間考え込んでから、答えた。

「……十五年です」

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