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「……あ、ごめん、梓」

「一体どうしたの? あんなに慌てて出るなんて……楓、いつもと違うよ?」

 梓の言葉で冷静さを取り戻す。そもそも僕は何故あの女性をトカゲだと判断したのか。外見が異常だったわけでもない。特異な能力を発揮したわけでもない。ただ正体のわからない直感でそう判断しただけだ。異常なのはあの女性か――それとも、僕か。

「その……上手くは言えないけど、あのままあそこにいたら駄目な気がしたんだ、だから」

 こんなことを言ったところで納得してもらえるとは思えない。だが、本当のことを話せば尚更納得してもらえなくなる。

 案の定梓の表情は強張ったものになり、疑わしげな視線をこちらに向けてくる。

「……やっぱり、私には本当のことは話せないのかな。前に真奈ちゃんのことを相談された時みたいに」

 梓の表情は僕の見ている前で物悲しげなものに変わった。胸に鮮明な痛みが走る。

「……ごめん、梓、でも」

「――あの、すいません!」

 知らない男性の声が、僕の声を遮る。声のした方を向くと、そこにはついさっきカフェで見かけた青年と――トカゲと思しき女がいた。

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