15

(あれは……トカゲ、なのか?)

 外見におかしなところはない。周囲の人間にもちゃんと見えているようだ。だが、そう判断する理性とは無関係に、僕の全身が叫んでいる――あの女はトカゲだ、と。

「……楓、どうかしたの?」

 梓の声で我に返る。急いでここから逃げるべきだ。もし、あの女に目をつけられでもしたら、

「梓、そろそろ出よう」

「え……でも楓のミルクレープまだ残って」

「いいんだ」

 立ち上がり、梓の手を引いてレジに向かう。会計を済ませている間、一瞬だけトカゲと思しき女の方を見る。

 ――女は僕の方を見ていた。視線が合う。女の目が見開かれる。

「行こう」

 会計が終わると同時に、梓の手を強く引き、店から出る。できればタクシーにでも乗りたかったが見える範囲には走っていない。ならば近くの駅に――

「……で……楓! 離して!」

 手が振りほどかれる。後ろを振り返ると、涙目になっている梓の姿が見えた。

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