五 似姿の恋

 少女漫画のページが早いペースでめくられていく。きちんと読んでいるわけではないので正確に把握してはいないが、内容は現代活劇、とでもいうのだろうか。主人公の少女が、最愛の女性を救うために悪の組織と戦う少年と出会い、彼への恋心に悩み苦しみながら、それでも彼を助けるために共に悪の組織に立ち向かう、という風な内容だと思う。

 もぞ、と僕の膝の上に乗っているものが動いた。そして上体にかかっていた重さがふっと消える。

 美しく長い黒髪で覆われた頭が回転して、整った少女の顔が現れる。少女は僕の顔を見上げると、にんまりと笑った。

「……真奈さん、流石にそろそろいいんじゃないかな」

「駄目っ! まだこうしてるのっ!」

 溜め息をつく。真奈さんを膝の上に乗せてまだ一〇分ほどだが、それでも太腿に若干痛みが走り始めていた。軟らかいソファにでも座っていたのならまた違ったのだろうが、僕が座っているのはごく普通の椅子だ。これ以上痛みが強くなる前に、なんとか真奈さんに降りてもらわなければならない。

「膝の上に座っていいって言ったの、せんせーでしょ?」

「……確かにそうだけど」

 中間テストで全教科九〇点以上取れたらご褒美が欲しい――真奈さんがそんなことを言ってきたので、僕がどんなものがいいの、と聞いたところ、

『いつでもせんせーの膝の上に座っていい権利!』

 というよくわからない答えが返ってきた。何度僕が、そんなのじゃあご褒美にならないだろう、と言っても、真奈さんはこれじゃなきゃ嫌だ! の一点張りだった。そうして真奈さんに押し切られた結果が、今のこの状況である。

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