18

「……なんで、私だけこんな目に遭うんだろう、って思ってたの」

「……うん」

「怪我とか病気とか、不幸なことは他にも色々あるけど、誰にも相談できない、相談したとしても誰にも信じてもらえない、そんな目に、なんで私が、私だけが遭わなきゃいけないんだって、ずっと思ってた」

「……うん」

「でも、私だけじゃなかった。せんせーもずっと同じような、ううん、私よりも辛い目に遭ってきたんだよね」

(……僕が、真奈さんよりも辛い?)

「私はあいつに脅されてただけだけど、せんせーは、その、目には見えない大切なものを、色々、食べられたんでしょう?」

「――いや、それは」

「わかるよ! ちょっと話しただけでもわかる。せんせー、本当にいい人だけど、なんていうか、心のあちこちが欠けてるってわかるもん。それもすごく不自然な欠け方。だから、私なんかより、せんせーの方がずっと、辛いよ」

 思わず手を握りしめる。その感覚がなければ、自分というものを見失いそうだったからだ。

「……せんせー、私、私ね」

 僕の見ている前で、真奈さんの頬を涙がつたった。

「……私、あんなやつと結婚なんかしたくない! あんなやつに連れていかれるのなんて……嫌だよ……」

 それは、自分に降りかかった災いへの精一杯の抵抗なのだろうか。真奈さんは目を閉じることなく、大粒の涙をいくつもいくつも零す。

 ――流石にそれを、ただ見ていることはできなかった。

「――せんせー?」

 抱き寄せた真奈さんの体は、僕よりもずっと華奢だった。こんな体で一人恐怖に耐えていたのかと思うと、僕の中の言い表せない何かにヒビが入るようだった。

「ごめん。嫌だったら、やめるよ」

 必死で抑えようとして、それでも抑え切れない啜り泣く声。それが、真奈さんの返答だった。

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