第13話 そして選んだ道

「試験は合格です。上も喜んでグフッ!」

 菅原は花太郎の顔を見た瞬間ぶん殴った。

 「さっさと上に会わせろ!」

 菅原は指定された時間、指定された場所へと向かった。

 待ち合わせ場所はまさかの純喫茶“天国”。そこで待っていたのは驚くべき人物だった。

 「あ、兄貴?」

 菅原の兄がそこにいた。

 真田学園出身者であり、真田大学社会学部の生徒。

 「兄貴が花子?」

 「いや違う。いくぞ。花子はお前に会いたがっている」

 菅原兄弟はそのまま真田学園に向かう。

 「ここだ。ここで花子は待っている」

 そう言ってとある場所の前で兄は去った。

 菅原は意を決する。

 そして扉を開けた。

 そこには初老の男性が座している。

 「こんにちは、菅原くん。私が花子です」

 校長だ。

 「あなたが・・・・・・花子・・・・・・?」

 「そうだね。私が全て指示していたことだ」

 「どうして。なぜあなたが?」

 「不思議かい?学園につたわる怪談が私に繋がることが」

 「それはそうでしょう。だってあなたはこの学園の校長だ」

 「ああ。だからこそ私は全てを管理している。しなければならないんだ」

 「それと・・・・・・花子になんの関係が?」

 「私の望むところは基盤にある。完璧な基盤の構築だ」

 「基盤?」

 「そう。子供が大人になるための基盤。それが今の子供たちに必要なんだ」

 「・・・・・・・・・」

 「そのために情報を集めている。あらゆる手段を使ってね。花子もそのうちの一つ。網の一端でしかない。だがいい結果は出ているよ。怪談に惹かれて多くの生徒が花子に会いに来てくれる。そして今の悩みを打ち明けてくれる。相手が人間ではないからこそ、まるで独り言のように全て語ってくれている。私たちはその情報を得て、新しい教育体制を形作っていける」

 「そのための花子」

 「そう。全ては君たちのため。これについては一部の学生と教師に協力してもらっている」

 「花子は教育体制を築くためのシステム。そういうことなんですね」

 「ああ。もちろん記事にはしないでほしい。ポケットの中にしまってある録音テープもできれば出してほしいかな」

 「・・・・・・・・・どうせ記事にしたとしても誰も信じないでしょう」

 「そうだね。君の言う通りだ。しかし、私としてはそういう疑念の思いを芽ほども生えさせるわけにはいかないんだ。だからね、君にも一員になってもらいたいんだ。未来をつくる一員に」

 「未来をつくる一員?」

 「そうだよ。子供たちを正しく昇華させる。正しい方向に向かわせる。つまりそれは未来を作ることに等しい」

 「・・・・・・・・・」

 「さあ。君も一緒に」

 「お断りします」

 菅原は校長に背を向ける。

 「未来をつくる?子供たちを正しい方向に向かわせる?まるで俺たちを物みたいに扱う気でいるんじゃないですか?」

 「そうだね。でも間違った方向に向いているものは、矯正が必要だろう」

 「そうかもしれません」

 「多少強引な方法をとるかもしれない。でもね。私は子供たちが将来笑ってくれればそれでいいんだ」

 「それがいいのかもしれません。人は誰かに導いてもらわないと生きていけないかもしれない。誰かに手を引いてもらったほうが満足に人生を歩んでいけるかもしれない。でも俺は、少なくとも俺は、誰かが引いたレールを進んでいきたいとは思えない」

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