第12話 戦い

なぜこんな状況になったのだ。


 これのテストの内か。こうなることも想定されていたのか、それともこうなるように仕向けられたのか。それはわからない。だが今菅原の命に危機が迫っているということは確かだ。


「まてっ、まてよあんたっ。あのな、あれは俺だけのせいでは」


「じゃかあしんだよ菅原ぁ!んなことわかってんだ!お前だけが絡んでるとは思えねえ。でもな。お前が一番許せねえ。黒幕がいようとなんだろうと、実行犯のお前は必ず殺す」


「殺すだって?いくらなんでもそりゃやりすぎだろ」


「そうだな。やりすぎだ。だが多少はやりすぎるぜ。じゃねえと俺の気がすまねえんだよ。もちろんお前の命は奪わないし、ちゃんと警察には自首してやるよ。だからよ。てめえを男として殺してやる」


「男として?」


「ああ、そうさ。てめえのチンコぶち切って食堂の惣菜コーナーに並べてやる!」


「やめてくれ!やりすぎだ!それもやりすぎだろう!」


「なにがやりすぎなんだよ。死ぬことはねえんだ。チンコくらいは我慢しやがれ」


「いやそれも殺人だ。罪には問われないが殺人になるぞ。俺の男根を切断するということは、未来で生まれてくるかもしれない俺の子供が、子孫が生まれてこないってことだ。それは立派な殺人だろ」


「じゃあどこ切らしてくれんだよ!目ん玉か!耳か!舌か!てめえふざけんなよ。あんまり俺を怒らせんな!まじで息の根を止めてやろうか!」


「まてよ、まて!はやまるな!こんなところではやまるなよ」


「うるせえなあ、うるせえなあ!ああ、そうだ忘れてたゲームをしろって頼まれてるんだ」


「なに?」


「お前に何をしてもいいっていわれてるけどよ。ただゲームはしろっていわれてるんだよ。ゲームに勝てば俺はお前を好きにできるんだ」


 やはりこれは仕組まれたものだったか。


「ゲームとは?」


「互いにゲームを出し合って、どちらかが2勝したほうが勝ちだ。俺が勝てばお前のチンコを狩る。お前が勝てば逃げていい。今後いっさいてめえは狙わねえよ」


「ならさっさと初めてくれ。こんな状況はもううんざりだ」


「まあ焦るなよ。どうだ?先にお前からゲームを提案してもいいぞ」


「そうか。ならしりとりだ。しりとりでいくぞ」


「そんな簡単なものでいいのか?」


「ああ。ただ制限時間ありだ。制限時間は1分。しかも最後の言葉が、ぎとかぐとかでも濁点を外すのはなしだ。いかなる変換も認めない」


「いいぜ。自信はある。制限時間を過ぎた場合のみ負けでいいんだな?」


「ああ、そうだ」


「それだけでいいんだな?じゃあ始めるぞ。りんご」


「ごりら」


「ライオン」


「は?」


「だからライオンだよ、ライオン。次はお前の番だ」


「何を言っているんだ。んがつけば終わりだろ」


「普通はな。でもお前さっき確認しただろ?制限時間を過ぎた場合のみ負けでいいんだな?ってよ」


「汚いぞ!」


「てめえが用意したゲームだ。ちゃんと確認もいれた。おらどうした。一分過ぎるぞ。これでほんとに俺の勝ちだ」


「だがある!ンジャメナ」


「なに?」


「言っただろ。ンジャメナ。国名だ。信じないなら調べろ。一分過ぎる前にな」


「くそっ。なっぱだ。菜っ葉」


「パイナップル」


「ルビー」


「いでいいんだな。いか」


「枯れ葉」


 この瞬間、菅原は勝利を確信する。は、だよな。は、なら……


「鼻血」


「磁石」


「だめだ。やり直せ」


「なんだと?」


「磁石はだめだろ、じはダメだ。俺は鼻血と言ったんだ。ちに濁点だバカたれ」


「ふざけんじゃねえよ。ちに濁点で始まる言葉なんてあるか、くそが」


「言っただろ。いかなる変換も認めないってな。お前はそれに納得しただろ」


「てめえ!」


「一分過ぎたぞ。ひとまず俺の一勝だ」


 菅原は自分のペースに相手を乗せれていることを、この瞬間確信していた。


 いける。今なら俺の発言が通る。


「なあ。元生徒会長さん。これから2ゲームなんてまどろっこしいことやらなくていいだろ?次で最終ゲームでいい。これにあんたが勝てば、もうそっちの勝利でいいよ」


 元生徒会長はだいぶ頭に血が上って来ている。それはもう菅原にはわかっていた。


「どんなゲームだ」


「シンプルだ。俺がここから生きて出られるかどうかのゲーム」


「へえ」


 はっきり言って菅原にとっては不安でしかたなかった。本当にこの男がゲームに勝ったからといって俺を逃がしてくれるのか?いや、信用できない。なら、ゲームが終わったあとにあれこれするよりも、それ自体をゲームにしてしまえば手っ取り早い。


 菅原は逃げ切る自信があった。勝てる。間違いなく今の元会長になら逃げれる。


「どうせこんな個室のボロい扉。本気で蹴れば施錠なんてしていても意味がない。だったらどうだ?もうこんなところから出て決着つけようぜ。俺の合図でいっせいに出る。そこからは自由だ。あんたは俺を刺してもいい?どうだ?あんたは刃物持ってんだ。有利だろ?」


「ああ。構わねえよ。それにお前の合図で始めていい」


 元会長は菅原をみくびっていた。どうせ3、2、1とか合図しておきながら、2くらいのタイミングで外に出るつもりなんだろう。けどな、俺の個室の扉を開ければもう道はふさがるんだよ。フライングしようが、俺の開けた扉にぶつかるか遮られるのがオチだ。こいつはもうヤケになってやがるんだ。バカなやつめ。


「ではいくぞ。3、2、1!」


 勢いよく扉を開ける元会長。


 だが、衝突音はしない。


 ナイフを構えて、外に飛び出す。


 だが菅原の姿はない。バカな。個室にこもっているだと!?


「詰みだぞ菅原!」


「詰んだのはお前だ!」


 その声は驚く場所で聞こえてきた。


 あ、ありえない……。


 元会長は今自分が出てきた個室を見る。


 その瞬間、目の前で火花が散る。拳が飛んできたのだ。


 なぜだ!なぜ菅原が俺の個室から出てきたんだ!


 薄れゆく視界のなかで元会長は気づく。ああ、そうゆうことか。


 こいつ。便器の上に乗って、個室の壁を飛び越えてきやがった……

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