第11話 邂逅
新聞部部長の菅原は花子の謎の核心にほぼ近づいていた。
「お前を捕まえるのにかなり時間をくった。さあ、話してくれ。俺の納得がいくまで真実を」
菅原は純喫茶「天国」で一人の男子生徒と相対していた。
向かいに座る彼の名前は神田花太郎。菅原の知る花子がそこにいた。
「しつこい、けど凄いね君。ここまでこんなくだらない噂に付き合うなんて、よほどの執念とみた」
「オレにとってはくだらなくないんだ。もうそんなレベルにまで発展しちまったんだよ、俺の中でな」
「いいよ。教えてあげる。許可はおりてるからね」
「そもそも。お前は結局なんなんだ。こうしてここにいるということは幽霊ではないということだな」
「そうだね。僕は幽霊じゃないし、そもそもの話。僕は花子じゃない。僕は花子の代理だ」
「お前は花子じゃない?じゃあ花子というのはいったい・・・・・・」
「僕は今から一年前、花子の元に相談者として会いに行った。そこで会った女性から花子の代理をまかされた」
「ではその女が花子ということか」
「違うよ。彼女も代理。花子は別にいる。でも花子は幽霊なんかじゃない。確かな人間だよ」
「じゃあ花子とはいったい誰なんだ?」
「それは僕も知らない」
「どうしてあんな悩み相談をする必要がある?」
「さあね」
「そもそもお前はなぜ、あんな仕事を?」
「興味を引かれたというのが一番の理由かな。それにお金も出るんだよ、あれ。少ない額だけどさ」
「・・・・・・・・・お前の前に花子をやっていたという人物とは連絡をとれるか?そこから辿って“元”と会う」
「そんなの。僕が勝手に教えられるわけないよ。僕はもう花子の代理ではないけれど、かつてそうだった者として責任がある」
菅原には理解不能だった。
責任?そんなことを感じるほどのものだったのか【花子】というのは。まるでそれじゃあ何かの組織ではないか。
「でもそんな菅原くんに朗報がある。花子は君に興味があるんだって」
「俺に?」
「うん。だから君を試せと言われているよ」
「試す?いったいどうやって……」
「なあに。君にもやってもらうだけだよ。花子をね」
菅原が一日、花子として悩み相談を受ける。それが彼に対してのテストというものだった。
夕方。菅原は指示通り旧校舎に向かった。女子トイレの三番目の個室に入り、そのまま待機。
ほどなくして誰かが二番目の個室に入ってきた。
「花子さん花子さん。ぜひ俺の悩みを聞いてくれ」
男性の声だった。菅原がかすかに聞いたことのある声。だが友人のものではないことは明白だった。おそらく校内のどこかですれ違ったことくらいあるのかもしれない。
「俺はね。どうしても許せないことがあるんだ」
「ほう。それで?」
「…………痴漢の冤罪」
「なに?」
「そうだ。痴漢をしていないのに、女は俺がやったとほざきやがる」
「それは災難だな」
「ああ災難だ。でも悪いのはその女じゃねえよな」
「確かに。悪いのは本当に痴漢をしたやつだ。つまり実行犯だよ」
「たしかに。そのとおりだ」
「花子さんはどう思うよ?その実行犯を許していいのか。それとも罪を償ってもらうべきか」
「罪を償わせるのが妥当だ」
「な!そうだよな!じゃあどうやって罪を償わせるべきなんだ?」
「それは警察にだな」
「甘いだろ。甘いだろうがよ。そんなんじゃダメに決まってんだろ」
「じゃあ君はどうしたいんだ?」
「殺す」
「いや。いきすぎだろ、それは」
「ああ。たしかにそうだ。殺しはしないさ。殺すっていっても本当に命を奪うだけが、殺すってことじゃねえよな」
「社会的に、か」
「そうだ。そういうこともありだ」
「命を奪わないのであれば、いいんじゃないか?」
「じゃあそれはつまり。いいってことだよな。花子さんはいいって思うんだよな?」
「ああ。いいんじゃないか」
「いいんだな?ホントに、いいんだな?」
「いいといっているだろう。しつこいぞ」
「良かったよ。菅原。お前から許可が出るなんてな」
ガンッと音がする。
菅原は驚きのあまり尻餅をついた。
目の前の壁から急に何かがせりだしてきたのだから。
これは銀色の刃。ナイフの切っ先だ
「よお、菅原。覚えてるか?俺はお前がはめた男だよ」
先の生徒会長が隣りの個室にいる。
「忘れたとはいわせねえ。無実の俺に罪をかぶせやがった。俺のロッカーにあんなものいれやがって、ああ?てめえのせいで俺はもう会長じゃあねえ。家でも勘当寸前、俺の人生設計はめちゃくちゃだ。てめえなあ。いったいどう落とし前つけてくれんだよ。なあ!」
菅原は慌てて逃げようとする。だがその瞬間、ナイフが壁から引き抜かれた。
元会長が叫ぶ。
「逃げんじゃねえぞ菅原!てめえ今個室出ようとしただろ。俺の個室のほうが出口には近いんだよ。出たが最後、てめえの背中にぶっ刺してやるからな」
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