第10話 回顧録

「花子さん。花子さん。僕の悩みを聞いてちょうだい」

 「はいなーに?」

 旧校舎の3番目の個室にいるという花子さんは綺麗なソプラノボイスをもった女性の声をしていた。

 Twitterでは男か女かもよくわらないと誰かがつぶやいていたが、どうやら女だったらしい。

 「あなた。お名前は何ていうの?」

 「あれ。名前を聞くんですね」

 「ええ。覚えておきたいのよ。私に相談しにきた人のことを。それとお賽銭もちょうだい?」

 「ああ。はいはい。500円ね」

 相談者は上から500円を投げこんだ。

 「神田花太郎っす。今年入った1年生だよ」

 「あら。そうなの?へえ。カワイイ声してるわね。あなたの顔を見てみたいわ」

 「僕は別に見せてもいいんだけどね」

 「ふふふ。そうね。私は見せられない」

 「消えちゃうんでしょ?」

 「噂ではそうなってるの?」

 「違うの??」

 「いいえ。見られたら消えちゃうわ。それで?あなたの悩みって?」

 「はい。女がすべからず怖いんです」

 「あら。そんな質問に答えるのがわたしでごめんなさいね」

 「いえいえ。相手が幽霊だとわかってればどんな悩みでも楽に話せますよ」

 「それはよかったわ。それにしてもどうして?どうして女の子が怖いのかしら?あなたの方が、男の方が力もあるじゃない」

 「そういう。武力の怖さじゃないんですよ。怖いのは、目です」

 「目?」

 「そう。あの目で見られればすくみあがってしまう。なんでも見透かされているような気がするんです。ああ、こいつ、昨日オナニーしたなとかそんなことまでバレていそうな気がするんです」

 「あなた昨日したの?」

 「ええ、しましたとも。そうです。女はみんな男の心を読むことができるんですよ!」

 「それはちょっと妄想すぎるんじゃないかしら」

 「そんなことないよ!楊貴妃、貂蝉、クレオパトラ!偉大な王の影には例外なく悪女の影があった!みんな彼らの傀儡だったんだ!世界は女が回してるんだ!」

 「だとしたら凄いわね」

 「女王蜂と一緒ですよ!女は男に働かせている!この世界は女の都合のいいような世界になっているんだ!」

 「ふふ。それはそうかもしれないわね。私も似たような話を聞いたことがあるわ」

 「ですよねですよね?」

 「よく映画でこんなシーンを見たことがない?非常時に、女と子供を先に逃がせ!みたいなシーン」

 「ああ!タイタニックでもあったよね」

 「あれってどうして女と子供が先なのかわかる?」

 「え?それは・・・・・・非力だからですか?」

 「違うわ。それなら成人男性でも非力なら先に逃げていいということになるじゃない」

 「ああそうか。じゃあどうして?」

 「女は子を産めるからよ。子供はまあ期待値を考えてでしょうね。大人よりも長生きできるんだから、それだけ自分よりも社会貢献ができるという期待をこめて」

 「え。じゃあ老人の女性はどうなるんですか?期待値もないですよ。産めるとは思えませし」

 「それは例外的に先に逃がすに決まってるじゃない」

 「へえ?」

 「非常時に、女と子供は先に逃げろ!だが老婆は産めないし今逃がしても早死するからダメだ!なんて言ったらどうなると思う?」

 「そりゃ反発しますよね」

 「ええ。そこで騒ぐのが男と女の違いよ。老人の男性は納得するのにね」

 「ははあ。やっぱりこの世界は女が強いようになってるんだなあ」

 「それはそうよ。子孫を残せるんだもの」

 「うーん」

 「でも逆にいえば産めなければ終わりということよ」

 「え?」 

 「子供を産めなければ価値がないということ。つまり貞操観念の強い女は生きてる必要がないというわけよ」

 「そいうことか!はは!股開かぬ女に価値無し!名言ですね!」

 「少し楽になった?」

 「はい!なんだかそう思うと女に怯えている自分が何だかバカらしくなりましたよ!」

 「よかったわ・・・・・・それにしても。あなたいい声してるわね」

 「え?ほんとですか?花子さんの方が綺麗な声してますよ?」

 「そうね。だから選ばれたんだもの」

 「え?」

 「声か、触れるか、でないと人は落ちつかないのよ」

 「えと、つまり?」

 「つまりいい声の持ち主は相手を落ちつかせることができるの。ねえ、あなた。私のあとをついでみない?」

 「つぐって、いったい何を?」

 「だから花子を、よ」

 コンコンっと花太郎の個室がノックされた。

 開いたその先には一人の女子生徒が立っている。花太郎は彼女のことを知っていた。

 なぜなら彼女は学園の副会長を務めている人物であったからだ。

 「私ね。こんど生徒会長になるのよ。だからもう今以上に忙しくなってこんなことできないわけ。せっかく頂いた花子の座なんだけど、誰かに譲りたいのよ。ね?せっかくだからあなたもしてみない?花子を」

 これは今から一年前の出来事である。

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