第9話 3度目の大戦は結局おこらなかった

「花子くん花子くん。俺の悩みを聞いて貰いたい」

 「はい。呼ばれました。今回の悩みはなんでしょう」

 「あれ?聞いているよりも丁寧な口調だね」

 「はい。今回からはこういう丁寧な口調で行きたいと思っておりますです」

 「日本語間違ってるよ」

 今回の相談者は三年生の田中太郎。所属は4組という学園の中では少し変わった特徴のあるクラスだった。

 「俺の所属は4組でね。いわゆる留学生や帰国子女の集まるクラスなんだ」

 「ああ。外来クラスの生徒なのですね」

 「実はあのクラスって前まで凄くみんな仲が悪かったんだ」

 「そうなのですか」

 「うん。俺だって喧嘩の毎日だったよ。中国人のリーくんや、ロシア人のイワンくんなんかとドンパチやりあったことがあるよ。まあ、席が近かったから」

 「しかしまあどのような理由で喧嘩など?」

 「うーん。もちろん理由はあったよ。でもしょうじき全部大したこのない理由だよ。理由があるから喧嘩するんじゃなくて、喧嘩をしたいから理由をつくるみたいな」

 「そのようなことが。獣ですね」

 「あーそうそう。ほんと獣みたいに。みんな自己顕示欲とか強かったからさ。もちろん保身のためとか、先にやらないとやられると思ったから、とかみんな言ってたけどね」

 「それで、どのように喧嘩三昧の日々は終わりを告げたので?」

 「あー。アメリカ人のマイケルってのがいるんだけどさ。彼が学校に持ってきたんだよ。純銀のメリケンサックを」

 「純銀のメリケンサック!?」

 「そうそう。しかも先にトゲトゲがいっぱいついてるやつ」

 「それはあまりにも恐ろしいですね」

 「みんな驚いたよ。なんだあれは!って。でも純銀メリケンサックの餌食になったのは今のところ俺だけかな」

 「それまたどうしてでしょうか?」

 「俺が殴られて、平和になったんだよ。みんな喧嘩するのをやめた。マイケルやべえってなってさ」

 「それは災難な話ですね」

 「2発ボンボンって殴られてさ。骨は折れるわ、血もダラダラ出るわ。教室中大騒ぎさ。でもそれでひとまずみんなおさまった。心のどこかでマイケルを警戒しつつも、表面上はみんな涼しい顔をしてるのさ」

「それで・・・・・・あなたの悩みというのは?」

 「ああ。実は最近ヤバいやつが出てきて」

 「というと?」

 「俺の隣の席にいるペーくんがいきり始めたんだよ。俺だってメリケンサック持ってるぜーって言って」

 「そんなあからさまに?」

 「うん。あからさまに。みんなにメリケンサックを見せつけてるんだ。でも彼のやつは純銀じゃないし、トゲもついてない」

 「あんまり痛そうではない、と」

 「そう。でもね。殴られたら普通に痛いんだよ。どんなメリケンでもさ」

 「まあ。それはそうでしょうね」

 「クラスのみんなはペーくんをリンチしようって言ってるよ。ペーくんはあのマイケルくんも挑発してるんだしね。でも1番損なのは俺だよ。ペーくんとマイケルくんの席に挟まれた俺はまず第1にぶん殴られるだろうし」

 「それがあなたの悩みというわけですね」

 「そう。どうすればいいと思う?」

 「あなたもメリケンサックを持てばいいじゃないですか?」

 「それはダメだよ。俺ってさ、2発殴られてるじゃん?だからそれを理由にみんなにメリケンサック捨てようねって訴えている最中なんだ。だからそんな俺がメリケンサックを持っちゃったら元も子もない」

 「じゃあ、こちらから先にしかけるとかどうですか?マイケルくんと協力して」

 「それもダメだよ。俺もう喧嘩はしないって宣言しちゃってるんだ。だからやるにしても反撃しか手段はないよ」

 「ええぇ。なんでそんな自分の行動ばかり制限してるんですか・・・・・・」

 「しちゃったものは仕方ないだろ・・・・・・それに。この話はそんな簡単な話じゃないよ」

 「まだ色々と問題が?」

 「うん。というよりみんな問題をかかえこんでるからそこまで協力的じゃないんだ。自分のことで精一杯というかんじだよ。マイケルくんだってイスラムくんにちょっかいかけられてブチ切れ寸前だし。俺ぐらいかな。呑気にマンガ書いたり、ゲーム作ったりしてるの」

 「いやいや。どうしてそんな余裕ぶってるんですか?」

 「メリケンサックで殴られてからはみんな色々と気にかけてくれたし。平和ボケってやつかな」

 そうしてそのまま今回の相談はほどなくして、結論が出ずに終わってしまった。

 後日、田中太郎は入院することとなる。ペーくんがついにマイケルくんと喧嘩して、それに巻きこまれて双方からメリケンサックの連打を食らった田中くんは成すすべもなく病院送りとなったのだ。

 しかしそれによって再び4組全体が全面戦争状態となることはなかった。

 田中太郎の犠牲によって再び喧嘩は中断。停戦となった。

 しかしこの戦いはまた再開することとなるだろう。

 それはきっと田中太郎が病院から帰ってきたぐらいに。

 そしてまたまた田中太郎がとばっちりを食らって入院することとなるであろう。

 それはもう最後まで受け身であった田中太郎の責任なのだ。

 がんばれ日本。

 

 

 

 新聞部部長の菅原は機を見て旧校舎のトイレに突入した。

 田中太郎の相談が終わり、彼がトイレから出てきた直後を狙って。

 花子。今日こそお前の存在を暴いてやる!

 その信念のもとに女子トイレへと入った彼は開きかけていた3番目の個室を確認する。

 3番目の個室に入っていた花子は慌てて扉を閉めようとするが、それを菅原は許さない。

 「逃がさないぞ花子!いつまで人間が幽霊を気取っているつもりだ!」

 しかし、彼が開けた先に花子はいない。

 少なくとも菅原があの日動画で撮影したはずの花子はいなかった。

 「ちょっと。あなた。なんなんですかいったい」

 そこには一人の女子生徒がいたのだ。

 馬鹿な。あの日俺の相談を受けた花子は男子生徒だったはず・・・・・・。

 困惑する菅原をよそに、その女子生徒は脱兎のごとくトイレを出た。

 わからない。花子は本当に幽霊なのか。いやそれとも予想通り人間なのか。

 男なのか女なのか。

 それともまさか俺の妄想なのか。

 菅原はただただ頭を抱えるだけだった。

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