第5話 真意

菅原の悩み相談は普段の倍の時間を要した。

 それもそのはず。要件は、彼の所属する新聞部の裏切り者を探ることだったからだ。

 「裏切り者に心当たりは?」

 「ある。二人だ。一人は新聞部の同期で女だ。インド人とのハーフで残念帰国子女といわれている女だ。やつより目立った俺を妬んでいる」

 「目立ちたがりやね」

 「二人目が新入部員のゲイだ」

 「ゲイなの?」

 「ああ。奴は実の弟とやってるし、それを公で話している。ハメ撮り動画も1度流出した」

 「とんでもない近親相姦だね」

 「だが奴は野心家だ。この部長の座を狙っている」

 「何かいいことでもあるの?」

 「部費をちょろまかせる」

 「君、弱味だらけだね」

 「ああ。まいったよ。因果応報というか」

 「自業自得?」

 「だな。それで。お前はどう思う?誰が俺を詐欺師だと記事にした?」

 「そもそも、君が前生徒会長をはめたことは新聞部全員の周知の事実なの?」

 「いいや。知ってるのは俺と副会長だけのはずだ」

 「だとしたら情報がもれたとか?」

 「どうやって漏れるというんだ」

 「そりゃまあ口から」

 「ふんっ。俺も副会長も誰かに漏らすなどするはずがない。どうして自分の首をしめるようなことをする必要がある?俺が麻薬の件を明かせば、現生徒会長である奴は失脚することになる」

 「それでも君を封殺したいんじゃないの?秘密を知るものは自分以外に必要ないって」

 「バカな。そこまで浅はかな人間ではない。思慮深く、狡猾で、そしてみりょ・・・・・・」

 「いやでも。前の生徒会長は無実を訴えていたんだ。でもそんな彼の言うことは無視された。それはつまり1度立場を失えば発言権を失うっていうことじゃないの?」

 「ああそうさ。1度つけられた札は2度と剥がすことのできない烙印となるのがこの真田学園だ」

 「じゃあやっぱり副会長が」

 「彼女はそんなことするはずないだろ!!!」

 突然の怒声だった。

 それまで声色に焦燥を含ませるだけで、静かに語り続けていた彼がついに声を大きく荒らげて叫んだのだ。

 「彼女はそんなことしない」

 「・・・・・・副会長が女性ということは知っていたよ。でも君は今初めて“ 彼女”といったんだ。“ 奴”ではなくて」

 「・・・・・・・・・ああ。あいつはビジネスパートナーみたいなもんだった。そこに愛情なんてなかったんだよ。だから俺はあいつを女として見てなかった・・・・・・いや。見ようとしてなかった」

 「・・・・・・・・・」

 「二年前だ。俺は細細と新聞部に入りながらも、なくなった園芸部の代わりに屋上庭園を毎日掃除していたんだ」

 「花が好きなの?」

 「いや。いつもあいつがいるからさ」

 「めっちゃ好きやん」

 「認めたくなかったよ。俺は恋なんてものを経験したことがなかったし、女なんてみんな浅ましい愚かな生き物だと思っていたからな」

 「偏見つよっ」

 「だが彼女の視線には、語る言葉はな。生きてるんだよ。まるで毒蛇みたいに俺に絡みついてくる」

 「それ。恋してるから」

 「あいつに誘われて寝た」

 「もしかして副会長からもらった対価っていうのは・・・・・・」

 「ああ。セックスのことだ」

 「えっちいね」

 「抱く前にベッドの上で囁かれた。会長を堕とせ、とな。逆らえるわけがなかった」

 「性欲に?」

 「愛情にだ!」

 「いや、怒鳴らなくても」

 「そして俺は彼女のいうとおりに会長をはめた。そしたらな。ふって、何かが消えたんだよ。俺に絡みついた蛇が、向けられていた視線が突然」

 「利用されてただけなんだから」

 「ああ。そうだよな。だが俺は・・・・・・肌を重ねただけで愛を覚えてしまったんだ。哀れにもな」

 「黙れよ。童貞こじらせんな。1発やって調子にのりやがって」

 「笑え。ののしれ。俺がいくら詐欺師だと記事で叫ばれようと彼女は俺に見向きもしない。まるでそんな事実なかったかのように」

 「あのさ。もしかして記事をばらまいたのって」

 「そうだ。俺だよ。さっさと気づけアホが。自作自演だ。ついに恋に狂った男が自分の首を吊ってまで気のある女を振り向かせようとしたんだ」

 「それは笑えるどころか、もはや泣ける」

 「ああ。だが結局それも徒労に終わったがな。副会長はもう俺の女ではない」

 「そもそもお前の女とは誰も言ってない」

 「たしかにな。ふふ。全てを話してスッキリしたよ。1発抜いたような気分だ」

 「お役に立てて何よりで」

 「だが、自分で落とした評判は自分で上げなければならないな」

 「というと?」

 「お前の正体をあかす」

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