2-5. 渓谷の戦い
ルージュとジークは、お互いに奔りながら得物を振りかざしていた。
ルージュは
対するジークは、下から剣を振り上げ
軌道がズレた
闘技大会での戦い方と全く異なり、ルージュの力量が凄まじい事を示していた。
ジークは躱し、去なし、防御に徹しているからこそ持ちこたえているだけである。
攻めに入る瞬間が見つけられない。
このままではジリ貧なのは判っては居るが、糸口が見つからない。
ジークの本来の力を使えば、切り返せるだろうが、シャルロットとバグダムが居る。
可能な限り、ジークは自分の力を人目に晒したくない。
そうなると、剣技のみでルージュの猛攻を凌ぎ、相対する事になる。
これでは勝ち目が無い事が判っているが、ジークは迷っていた。
一方、シャルロットとバグダムも激戦になっていた。
2人で連携して攻撃を行っているが、ガルムの動きが速すぎて有効打が入らない。
バグダムがガルムの動きを牽制しているが、それでも捉えきれない。
バグダムの動きが悪いわけでは無い。
ガルムが速すぎるのである。
シャルロットも魔法を交えて攻撃するが、避けられるか効果がないかどちらかである。
また、ガルムの攻撃も熾烈な物であった。
鋭い爪と牙、そして口からの炎。
この巨躯でそれらを使われると、下手に受けられない。
受けた瞬間に、力負けして潰されてしまう。
シャルロットもバグダムも避けながら攻撃をするが、こんな状態なので決定打が打てない。
2人の戦いもジリ貧が続いていた。
「オラオラ!!ボウヤ、どうした?この程度か?」
ルージュの猛攻が苛烈を極め、ジークが圧され始めていた。
(このままでは俺だけで無く、シャルやバグダムもヤバイ)
ジークは迷いを振り切る様に力を解放した。
『ヴァルザード、聞こえるか?』
『お主から声を掛けてくるとは珍しいな』
ヴァルザード・・・ジークの愛剣、
そして、ジークのみ扱える異能、
ジークは、手にした武具の管制人格と
『ヴァルザード、皆を守りたい。力を貸せ』
『ほぉ。人前では力を使いたく無かったのでは無いのか?』
『悠長な事は言ってられない状況だ。この場を切り抜けて、ミラの街に行かなきゃならない』
『ふっ、お主は変わったな。昔は他人なぞ気にも留めなかったのになぁ』
ヴァルザードが半笑いで答える。
『馬鹿を言ってないで手を貸せ。この女を倒してガルムを潰すぞ』
『良いだろう。次の
ジークは、手に力を入れ強く握り
シャルロットとバグダムも徐々にガルムの体力を削っていたが、一向に決定打が無い状態が続いていた。
シャルロットは、意を決してダグダムに叫ぶ。
「バグダム団長!!30秒持ちこたえて貰えませんか?全力魔法を撃ち込みます」
それを聞いたバグダムは、シャルロットを庇う様に前進し、応えた。
「その30秒、任された!!デカいの頼むぜ、お嬢ちゃん!!」
そう言って、ガルムに単身向かっていった。
シャルロットは、剣を納刀し目を閉じ集中した。
身体を巡る
(1個・・・2個目・・・まだ足りない・・・3個目・・・)
徐々にシャルロットの身体に魔力が漲っていき、溢れ出しそうになる。
その魔力を両手に集めていく。
(・・・7個目・・・8個目・・・9個目・・・ラスト)
全リミッターを解除したシャルロットは、全身から赤い魔力光が溢れ出しており、
濃密な魔力が身体中を巡っている事が判る。
カッ!!っと目を開き、魔法を展開していく。
シャルロットの持つ最大火力の魔法、
闘技大会では殺傷能力5以上の魔法は使用不可だった為、使えなかったシャルロットの切り札。
獄炎の槍・
自身の全魔力を使用するこれは、魔法障壁すら貫通する威力を持つ。
闘技大会の
ガルムを中心に円周状に巨大な炎の玉が展開されていく。
徐々に増えていき、総数は100を優に超える。
展開を完了させたシャルロットは叫ぶ。
「バグダム団長、離れて!!」
待ってました、とばかりにガルムに一撃を入れノックバックを引き起こし、待避するバグダム。
その瞬間、シャルロットが魔法を発動する。
「
炎の玉から一斉に
|
待避していたバグダムは息を呑んだ。
魔力消費が激しいとされている
これほど連続射出する魔法は見た事が無い。
ガルムを中心とした着弾点は余りの威力に地面は溶け、溶岩と化していた。
ガルムに着弾した余波の熱だけで溶かしているのである。
どれほどの威力があるか、想像するに恐ろしい。
そして、炎の玉が小さくなっていき、射出が終わった。
が、まだシャルロットの魔法は終わってない。
全部の炎の玉を上に掲げた掌に集め、集約していく。
そして、長い炎の槍が現れた。
それを、シャルロットはガルムに向けて投げた。
「バースト・エンド!!!」
槍は深々とガルムに突き刺さり、爆発した。
煙が風に流されて見えてきたガルムは、身体中が血だらけで立っていた。
周囲の岩は
余りの威力。バグダムは声を失っていた。
ガルムは、自身の死をゆっくり認識していく様に倒れていった。
ルージュは急な脱力感に襲われた。
ジークに向けて
剣が合わさった瞬間、注入していた魔力がごっそり無くなっていった。
最初は
剣を合わせる度に同じ現象が起きている。
間違いなく、ジークが何かを行っている。
「へぇ、ボウヤ。ここに来て、まだ隠し球を持ってたなんてねぇ」
連続の魔力消失で、ルージュの息も乱れていた。
本来の
一度、注入してしまえばしばらくは振り回せるはずだった。
なのに、注入した魔力が何度も空にされてしまっている。
でなければ、ルージュと言えど容易く振り回せる代物では無いのである。
そして、ジークの剣は淡く光を放っている。
どうやら、ジークの剣に魔力を吸収されたと考えるのが妥当であろう。
ルージュは、そう考え対策を考えるが、ジークがその隙を見逃すはずが無い。
ジークはすかさずルージュに詰め寄り、斬りかかっていた。
ルージュが紙一重で避けようと動いたが、ジークの剣がルージュの右腕を斬った。
(何!?)
ルージュは確かに紙一重で避けていた・・・はずである。
ここに来て間合いを計り損ねるほどルージュは弱くない。
しかし、確かにジークの剣はルージュを斬った。
ルージュがジークを観察すると、ジークの剣の切っ先から魔力光で出来た刃が伸びていた。
(そういうことかよ。コイツは参ったねぇ)
ジークは、
剣に刃を延長していたのである。
これならば、紙一重で避けてもジークの間合いの中である。
だが、ルージュも歴戦の戦士である。
間合いを計り直す事は容易い。
伸びた間合いを計算して、戦えば良いだけの事。
そして、ジークの剣戟が襲ってきた。
(舐めるなよ、ボウヤ!!)
そう思い、反撃に転ずる為伸びた間合いの紙一重で避ける為、剣を避けた・・・はずだった。
今度はルージュの左腕をジークの剣が斬ったのである。
よく見れば、ジークの剣の魔力刃の長さが変わっていた。
(なんでもアリかよ!!)
こうなると、ルージュとしては紙一重で避ける事が難しくなった。
想定している間合いに対して、実際の間合いを自由に変化されたら剣士にとっては致命的。
戦術の組み直しを考えているルージュに対して、ジークは剣を上段に構えて言った。
「どうやら向こう側は決着が付いた様だ。こちらもさっさと終わらせよう」
そう言って、ジークの剣の切っ先が分厚く伸びた。
その長さは、優に5mは有ろうかという長さ。
魔力刃で剣を巨大化させたのである。
ジークがその剣を振り下ろす。
その時、切っ先の後方で魔力が放出されて、ジークの剣が加速した。
「オイオイ、そりゃ無しだぜ」
半分諦めの色を滲ませた声を出すルージュ。
剣を受ける為
あの斬激は耐えられない。
諦めで目を閉じて、衝撃が来るのを待った・・・、がいつまで経っても衝撃が来ない。
ルージュが目を開けたとき、目に映ったのは黒い魔力で出来た巨大な槍であった。
ジークの剣は、その槍が受け止めていた。
ジークは、槍が飛んできた方向の崖の上を見上げた。
そこにはローブで身を纏った男が一人立っていた。
その男が静かにルージュに声を掛ける。
「何をしている?こちらの仕事は終わった。撤収するぞ」
「ダンナかい。助かったぜ」
そう言って、ルージュは崖の上に飛び上がった。
そこに、シャルロットとバグダムが駆けつけてきた。
「ダンナがここに居るって事は、アレは街に向かったのかい?」
「首尾は上々だ」
「なら、あたい達の仕事はここまでかね」
男はルージュの問いに答えず、踵を返した。
「じゃあな、ボウヤ。また、遊ぼうや」
そう言って、ルージュも消えていった。
ジーク達3人は、ひとまず生き残る事が出来た。
が、問題が解決したわけでは無い。
ベルに先行させては居るが、ミラの街にガルムの大群が迫っている。
そして、最後の会話。
ガルム以外の何かがまだある様であった。
3人は顔を合わせ肯き合い、ミラに向けて馬を奔らせた。
まだ、戦いは終わっていない。
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