2-4. ガルム棲息地

ジーク達4人が朝早く、ミラの街を出立して南方へ馬を奔らせる。

南方にある渓谷のガルムの棲息地を調査する為だ。

変貌したガルムの召喚事件の手掛かりがあるとすれば、

まず、ガルムの棲息地になるであろうからだ。

馬を奔らせながら、ジークはベルに聞いていた。

「ベル。ガルムの棲息地での調査と言っても、範囲が広いぞ。どうやるつもりだ?」

ベルは、その質問を予想していたようで、

「まずは、広域探査用の探査子サーチャーを棲息地全域に展開します。

そして、反応のあった場所を重点的に調査していきます。

何かしらの儀式等が行われていた場合、探査子サーチャーに反応が出ます」

探査子サーチャーも、ベルの発明の一つだという。

直径5mmほどの球体で、重さは鳥の羽根より軽い。

これを専用の発射台を使い、調査範囲にばらまくのである。

これなら、魔法に精通していなくても、調査や発掘などを行えるのである。

探査子サーチャーもいくつも種類があるそうで、今回のは魔力検知用の探査子サーチャーである。

調査内容により、探査子サーチャーを選択することで、的確な調査を行える。

また、探査子サーチャーに刻印された土魔法で、展開された探査子サーチャーは、一定期間の後、分解されて土に戻る仕組みが組み込まれている。

土地を汚染しない事をきちんと考えている設計なのである。

シャルロットも気になっていることが有るようで、ベルに問いかけていた。

「儀式魔法の魔力検知って、儀式から時間が経っていても可能なの?」

その問いにもベルは頷き答える。

「通常の魔法と異なり、儀式魔法は触媒を用いることがほとんどです。

その為、儀式魔法の後もしばらくは残留魔力がその場に停まっていることがほとんどなんです」

このやりとりを聞いていたバグダムは誇らしげに、

「2人とも、ベルは凄いだろ。国の防衛関係から、生活に至るまでベルは何でも作っちまうのさ。ある意味、イグノア共和国はベルの技術で成り立っている国なんだよ」

そう言われたベルは、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。

「バグダム団長、やめてくださいよ。私はそんな大した人間じゃないですよ」

その答えに対して、シャルロットは頭を振り、

「いや、ベルは凄い事をやっているんだ。誇って良い。

国を支えるのは、国民や騎士が『団結して集団で』対応する事で成り立つ。

その基盤となる技術のほとんどをベルが発明したのだ。そして、開発した物を皆が安心して使っている。これは、『ベルが作った物は信用でき、安心な物』である証拠だ」

シャルロットにも褒められ、更に顔を真っ赤にしているベルであった。

「2人とも、そこまでにした方が良い。そろそろ目的地だ」

ジークが素っ気なく言い、全員の顔に真剣味が漂う。

4人は、渓谷の入口に辿り着いた様だ。


ベルが手早く、探査子サーチャーの発射台を設置し、探査子サーチャーを展開する準備をしていた。

渓谷の入口とは言え、ガルムの棲息地である。

ジーク達3人は周辺警戒を行っていた。

だが、警戒している3人は異常な状況を把握していた。

周辺に生物の気配がのである。

いくら入口でもガルムの気配はあるはずである。

それが無い。

何かしらの異常が起きている証拠である。

「ベル、準備の方はどうだ?」

ジークが探査子サーチャーの状況を確認する。

「もうすぐ、展開出来ますよ」

発射台に設置された水晶を操作しながらベルが答える。

水晶の1個が緑色に発光し、準備完了を告げた。

「では、展開します」

ベルが水晶に手を置き、発射台から白煙を上げて探査子サーチャーが上空に飛ばされた。

空高く飛んだ探査子サーチャーが、上空で風魔法を展開し、放射状に広がっていく。

広がっていく探査子サーチャーは地表から見上げると、流れ星の様に見え、綺麗であった。

ベルは、水晶に表示されていく探査子サーチャーの観測結果を見ながら、分析を行っていく。

「!?」

ベルがある一点を指差し、驚きの声をあげる。

「この地点の残留魔力数値が異常です!!

何百人規模の儀式魔法でも無ければ、こんな反応は有り得ません」

つまり、その場所で起きていた証拠である。

「行きましょう。行って、そのを見つけなくては」

シャルロットが皆を促し、その場所に向け全員が向かった。


ギャィィィィン!!!!

4人が向かう先で、獣の悲鳴の様な叫び声があがった。

4人が顔を向け肯き合い、速度を上げた。

その場所では、一人の女がガルムの口に姿勢で立っていた。

ゆっくりと腕を引き抜き、腕に付いた血を布で拭う。

余りの光景に、ジーク達4人は動けずに居た。

「よぉ、久しぶりだな、ボウヤ」

女がジークを見て声を掛けてきた。

ジークとシャルロットは女の声と姿に見覚えがあった。

闘技大会でジークが準決勝で戦ったルージュである。

「意外と早くこの場所に辿り着けたな。もうちょっと時間が稼げると思ったんだがな」

ルージュは頭を搔きながら、ジーク達に身体を向けた。

「今、何をしていた?ルージュ」

ジークが最大限の警戒をしながら、ルージュに問うた。

ベル以外の3人は、既に剣を抜き臨戦態勢だった。

ジークの問いに対して反応したのは意外にもベルだった。

「ルージュですって!?」

ジークはルージュから視線を外さずにベルに聞いた。

「ベル、あいつの事を知っているのか?」

ベルは頷き答える。

漆黒の1匹狼ナイトメア・ウルフ、ルージュ。裏の業界では有名な人です。

依頼を受けるかどうかは本人が楽しめそうか、と言う判断だけという傭兵です」

ベルの説明を聞き、嬉しそうに笑うルージュ。

「ほぉ、あたいの事を知ってるガキが居るとは驚きだねぇ。関心関心♪」

愉しそうに笑うルージュと、険しい顔で対峙するジーク達。

相反する対応が場の異常さを際立たせる。

その時、ルージュの横に居たガルムに変化が起きた。

前触れも無く、2m程の身体が30m程に巨大化し、黒い毛が赤く変色していったのである。

「なっ!?」

ジーク達4人は、余りの光景に驚愕した。

そんなジーク達の反応が嬉しいのか笑顔を浮かべ、ルージュが語り出した。

「すげぇだろ?なんでも、魔獣を強化する古代魔法を現代魔法にアレンジして完成させたらしいぜ。

相性ってのは有るらしいんだが、大抵の魔獣・魔物は強化できるって話だ」

ルージュは赤く変貌したガルムの脚を叩きながら笑う。

もし、ルージュの話が本当の事ならば、ベルが予想した事が現実化する事になる。

ありとあらゆる魔獣が、街を襲う。

だが、ジーク達は訝しんでいた。

そんな重要な情報をこんな簡単に話してくるのか?

こちらを騙そうとするミスリードでは無いか?

そんな想いを気にしないかの様にルージュは続ける。

「まっ、そろそろガルム達がミラって街を襲う頃だろうし、あたい達は愉しくろうぜ」

ジーク達は驚きで声が出ないで居た。

ルージュは、ガルムと言った。

つまりは複数のガルムがミラに向かっているという事だ。

何体のガルムが向かっているかは分からないが、ミラでも防衛準備を行わなくてはならない。

今から奔って間に合うか?

ジークはベルに向かって言う。

「ベル。お前は一人でミラに戻って、防衛指揮を執れ」

そんなジークの言葉にベルは肯く。

「分かりました。この場は3人にお任せします。必ず生きて帰ってきてください。

街は私が絶対に守ります」

そう言って、ベルはミラに向けて奔っていた。

「なんだ。4人がかりで掛かってくると思ったんだがなぁ。アテが外れたぜ」

ルージュがつまらなそうに愚痴る。

ジークは、バグダムとシャルロットに告げる。

「ルージュは俺が引き受けた。2人はガルムを頼む」

その言葉に2人は頷いた。

「ボウヤ一人であたいの相手しようってか?

闘技大会の時と同じに見てると痛い目を見るぜ」

ルージュも自分の得物を抜き、正眼に構える。


今、戦いの火蓋が切って落とされた。

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