2-3. ミラの街の日常
ジークは一人でミラの街を歩いていた。
任務の出立は明日の早朝。
王都ベルン以外の街を見た事が無かったジークは、
この時間を利用して街を見てみようと思ったのである。
ミラはベルンと異なり、様々な店が乱立している様だ。
だが、活気溢れる大通りはベルンの雰囲気とは違い、どこか陽気な感じがする。
声を張り魚を売る鮮魚店、夕食の為か小走りで行き交う女性の姿。
家々の煙突からは、各家庭の夕食の香りが漂ってくる。
(こういう街も良いもんだな)
ジークは街を歩きながら、この雰囲気を愉しんでいた。
初めての街はジークと云えど、心が躍るものである。
大通りを歩いていたジークは、露天商で物色してるベルを見つけた。
「ベル、何か良い物でも有ったのか?」
声を掛けられて、ベルが振り返る。
「えぇ、この街の露天商はいつ見ても飽きないですよ」
既にどこかで買い物を済ませていたのか、両手に一杯の買い物袋がある。
袋から見える物は、円筒形の金属製の容器の様である。
「ベル、その容器は何だ?」
その質問を受けて、嬉しそうにベルが語り出した。
「これはですね、
私が開発して量産化した武具の一つですよ」
嬉しそうにベルが語っていたのは、自分の発明した武具だったからである。
「この
強力な魔法を使用する事が出来る画期的な武具です。
騎士団の皆さんにも概ね好評なんです」
自分の子供を自慢する親の様なベルは、自分の開発した物が大好きなのが分かる。
「概ねって事は、受け入れてない騎士もいるって事か?」
ジークの疑問ももっともである。
その問いに、ベルは乾いた笑いを浮かべながら、
「あははは、バグダム団長とかには受けが悪いんですよねぇ。
『自分を鍛えず、武具に頼るとは何事だ!!』って事らしいです」
ベルの答えを聞いてジークも納得した。
バグダムの様な叩き上げで昇ってきた騎士は鍛錬を怠らない。
お手軽魔法武具のような物には、好意を持てないのであろう。
「でも、街の守護兵器には取り入れて貰えたんですよ。
結構、説得には苦労しましたけどね」
ベルの云う守護兵器とは、街の外壁にある筒の事らしい。
名を
大型の
魔物の軍勢に街が襲われた際に使用する物で、周囲を一掃できるらしい。
どうやらベルは只の学者では無く、技術者としての一面も併せ持っているらしい。
「大変だったんだな、ベルも」
ジークはベルの肩を叩きながらそう言った。
それに対して、ベルは頭を振る。
「大変では無いですよ。私は魔法が上手く扱えません。
子供の頃は騎士に憧れていたんですが、素質が無いので学者に転向したんです。
そこで色んな事を学んで、自分と同じ境遇の人に何かしたかったんです。
幸い、技術方面にも手を伸ばせたので色んな魔装兵器の開発を行ってきました。
でも、根本にあったのは『何も出来ない自分で居るのは嫌だ』と言う衝動だけです。
言い換えれば、自分本位なだけですよ。
それが誰かの役に立ってるんです。嬉しいじゃ無いですか。」
顔を俯かせてそう言っているベルの目は、自分の内面の闇を本当の意味で受け入れている目では無かった。
同じ気持ちを持っていたジークだから気付く事が出来た些細な変化。
だからこそ、ジークは言った。
「何が自分の行動原理なのか、それがどういった物なのか。
それに気付ける者は少ない。受け入れる事が出来る者は更に少ない。
例え、他人を羨ましく思い、嫉み、嫉妬して手に入れた力でも、
その力は、お前自身の力であり、成果だ。他人の目を気にする事は無い」
ジークの言葉を聞いたベルは、顔を上げジークを見上げた。
ジークはベルの目を見つめながら微笑んでいた。
それを見たベルの目から、一筋の涙が流れた。
「お、おい。大丈夫か?」
ジークが慌てた様にベルの顔を覗き込む。
「大丈夫です。ジークさんの言葉で吹っ切れた気がします」
袖で涙を拭いたベルは、明るい笑顔を浮かべながら答えた。
「自分の中にあった暗い何かが引っかかってて、自分に自信が無かったんです。
でも、ジークさんに言われて晴れた気がします。この知識も技術も私の力。
どうやって手に入れたか、ではなく、どのようにして使うか。それが大事なんですよね」
ジークは頷き、
「そうだ、過程も大事だが、それに固執していては駄目だ。
自分が何をしたいのか?自分で何が出来るのか?
常に先を見つめる者に、神様は微笑んでくれるらしいぞ」
「そうですね。私もそう思います」
ジークとベルは並んで空を見上げる。空には満点の星空が輝いていた。
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