2-2. 首都ミラ
ジークとシャルロットは、街の門の前で馬車から降り立った。
イグノア共和国、首都ミラ。
王都ベルン同様、高い外壁に囲まれているが、壁のあちこちから大きな筒が飛び出している。
門は鉄で出来ており質実剛健な作りであり、圧倒される雰囲気を漂わせている。
「これが城塞都市、ミラ」
街の雰囲気に飲まれているシャルロットは、呆然と門を見上げながらつぶやく。
ジークもシャルロットと同様に雰囲気に飲まれており、言葉を発せられない。
シャルロットは頭を振り、ジークに声を掛ける。
「ジーク。ここで立ってても何も始まらない。街に入って騎士団と接触しよう」
シャルロットの声で我に返った様にジークは歩き出した。
守衛の騎士に声を掛け、手続きを済ませていくジーク。
しばらくすると、門が音を立てて開き始めた。
「シャル、終わったぞ。さっさと入ろう」
ジークは馬車の御者とシャルロットに声を掛け、街に入っていく。
シャルロットは慌てた様にジークを追い掛け、街に入っていく。
馬車が入った所で、再び音を立てて門が閉まっていく。
まるで、街が2人を飲み込む様に門が閉じられた。
騎士に連れられて2人は騎士団の隊舎に入った。
ここで、今回の任務の協力者と会う事になったのである。
しばらくすると、大男と小柄な青年が入ってきた。
大男の方は、筋肉隆々で甲冑越しにも威圧感があり、
背中に巨大なブレードソードを背負っていた。
右のこめかみから頬に掛けて、大きな傷跡があり、歴戦の勇士で有る事を物語っていた。
青年の方は、利発そうな顔で金髪、瞳は紅と紫の光彩異色であり、
旅装束を着慣れた感じで立っていた。
ジークとシャルロットは、席を立ち2人に礼をする。
すると、大男が喋り始めた。
「いやぁ、遅れてしまってすまんなぁ。まぁ、2人ともかけてくれ」
そう言って、大男と青年も席に着いた。
「まずは、自己紹介と行こうか。俺の名ははバグダム。この街の騎士団団長をやってる」
整えられているあご髭で笑うその顔は、愛嬌のある熊の様であった。
「私はベルと申します。学術院で研究員をやっております」
青年の方は頭を下げながら挨拶していた。
「このボウズは学術院きっての英才でな。我が国の頭脳だよ」
バグダムがベルの肩を叩き、笑いながら付け足していた。
「今回のお二人の任務の内容をお聞きして、私の調査とも非常に近い物でしたので、
バグダム団長にお願いしてここに参りました」
そう言って、ベルは懐から書状を取り出した。
ジークがエガリテ国王から預かっていた書状である。
イグノア共和国に任務の内容と協力を仰ぐ内容が書かれていた。
その書状をもっていると言う事は、このベルという青年は国の信頼がかなり高い証拠である。
「俺はジーク・エレミア。エガリテ王国の『
「私はシャルロット・エガリテ。エガリテ王国の『
4人は互いに握手を交わした。
そして、バグダムが口を開く
「さて、自己紹介も終わったから早速任務の話に入ろう。」
3人も頷き、会議が始まった。
「書状にも書かれていたが、赤いガルムがエガリテ王国に召喚されたって事らしいが、本当か?」
「本当だ。俺とシャルの2人がかりでなんとか倒せたが、かなり強力な魔獣だった」
それを聞き、バグダムとベルの目が鋭くなった。
「赤いガルムはイグノア共和国でも見た事は無い。しかも弄られてた形跡があるって事らしいが?」
「あぁ。宝玉らしき物が体内から発見された。その影響で強力な魔獣になったのでは、と言うのが現在の推測だ」
ベルが鞄から本を取り出し、とあるページを皆に見せた。
「古代文明の時、魔獣を強化する宝玉が有った事が書かれています。
ただ、その製法は既に失われていて、製造も不可能と思われていました」
ジークとシャルロットは、ページに書かれている宝玉の絵を見て、頷いた。
「王国で見つかった宝玉も、この絵と酷似している物だった」
ジークは絵を見て答えていたが、シャルロットは別の答えだった。
「いや、ジーク。これは我々が倒したガルムから出てきた宝玉と異なる部分がある。
細かい所を挙げていけばキリが無いが、大きく異なるのが大きさと形状だ」
シャルロットは本に書かれている宝玉の説明文を指さしながら続けた。
「この本によれば、宝玉の大きさは人の頭ほど。形状は楕円形だ。
だが、見つかった宝玉は拳ほどの大きさで真円だ」
ジークも見つかった宝玉を思い出しながら、頷く。
「王国の学者が調査した限りでは、あの宝玉は材料が揃えば量産も可能と言う。
しかし、本に書かれている宝玉は、製造に年単位の時間が必要と書かれている」
シャルロットの指摘を聞いていたバグダムとベルは、渋い顔をする。
「つまり、お嬢ちゃんの話を纏めるとだ。こういうことかい?
一つは、宝玉は資料に残っている物とは全く異なる代物であると言う事。
二つは、魔獣を強化してしまう危険な宝玉を、正体不明の誰かさんが量産していると言う事。
三つは、その誰かさんはどこにでもその強化された魔獣を召喚できるって事」
バグダムの纏めにシャルロットは頷く。
「王国の学者が今も調査していると思いますが、対抗策を練る事が出来るかまだ不明です」
バグダムは頭に手をやり、嘆息する。
「シャルロットさんの指摘通りなら、素体である魔獣はガルムだけなのでしょうか?」
ベルがシャルロットに尋ねる。
その言葉を聞き、全員がギョッとする。
「おいおい、まさか他の魔獣も強化されて襲ってくるってのか?」
「まだ、不明点が多いですが、可能性は高いと思われます。
これだけの宝玉を量産できる技術力があれば、他の強力な魔獣も対象になり得ます。
その宝玉そのものがこちらでも手に入れば解析作業が出来るので、もう少し詳細を調査できると思いますが・・・」
ベルは、言葉尻が小さくなりながら答える。
つまりは、イグノア共和国内でも魔獣が現れて、倒す必要があると言う事。
だが、それは国民を危険にさらす事になる。
堂々と言える内容では無いのである。
4人に沈黙が降り、部屋は重い雰囲気に支配されていた。
バグダムが手を叩き、3人が顔を上げた。
「ここで沈んでても埒があかねぇ。とりあえず、出来る所から調査していくとしよう」
3人の顔も少し明るくなり、全員が頷く。
「とりあえず、南のガルムの棲息地に行ってみるか。何かしら残ってるかも知れないからな」
バグダムは当面の調査の指針として、そう切り出した。
「そうですね。ガルムは棲息地から出る事は基本的に有り得ません。
今回、王国に召喚された魔獣がガルムである以上、棲息地に痕跡があるでしょう」
ベルもバグダムの方針に賛成の意見を示した。
「なら、早いほうが良いな。明日の早朝に出立しよう」
ジークがそう言い、全員が同意した。
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