1-6. 闘技大会 - 終演 -
闘技大会の決勝で起きたガルムの召喚事件。
誰が何の目的で起こした事件なのかは、現在も
犯人に結びつく情報はまだ出てきていない。
観客や王族関係者には被害が出ていない。
無論、闘技場の魔導防壁の功績も高いが、事件解決の功労者は2人の剣士。
ジーク・エレミアとシャルロット・エガリテの両名である。
国王は、この功績を称え両名を本年度の優勝者とする事にした。
このことにより、ジークの名は広く知れ渡った。
国王は、2人の功績に対して報償を出す事にし、ジークを王城に招いていた。
「ジーク、シャンとせんか!国王との謁見だぞ。ほら、服も乱れてるぞ」
そう言って、ジークの服を整え始めたのはシャルロットである。
いつもの騎士甲冑ではなく、白いドレスを着用し、頭にはティアラが光っている。
着慣れた様子で違和感が無く、正に「お姫様」という感じなのである。
(お姫さん、マジでお姫様だったんだなぁ・・・)
ジークはシャルロットを見て、そんな感想を抱いていた。
「お姫さんよ。仕方ないだろ、着慣れてないんだから。何だよ、このマントとか」
ジークも正装をしており、白いシャツに黒いベスト、黒いキュロット、そして真っ赤なマント。
均整の取れた体付きをしているジークが着ると、まさしく騎士と呼べる格好となる。
「良いじゃ無いか。似合ってるぞ、ジーク」
そう言うシャルロットは、ジークの姿を見てから顔が紅潮しており、なにかいつもと雰囲気が違っていた。
だが、慣れない服装や王城という場所もあり、ジークはシャルロットの変化に気付いていない。
「これで良し。さぁ、国王が待っていらっしゃる。さっさと行こう」
ジークとシャルロットは、並んで王城を歩いて行った。
謁見室に到着した2人は中央で国王に向かって頭を下げて跪いていた。
15段ほどの階段の上で、国王と王妃が玉座に座っており、2人を見下ろしていた。
「此度の件、よくぞ無事に解決してくれた。2人のおかげだ」
国王が2人に向かって感謝の言葉を掛けた。
2人は改めて頭を下げ国王の言葉を受け取っていた。
「特にジーク・エレミア。貴殿の活躍のおかげで魔獣の討伐を成す事が出来た」
ガルムを一刀両断をしていた光景を国王も見ていたのである。
「お、恐れ入ります、エガリテ国王」
普段のジークでは想像も出来ない程、丁寧な受け答えをしている。
が、ジークも慣れない環境に緊張が隠せないのか、言葉が詰まっていた。
そして、国王はそんなジークに向けて、
「ジーク殿の活躍を鑑みて、貴殿に『
と言い放った。
この言葉に、ジークは不可思議な顔を、シャルロットは驚愕の顔をしていた。
「父上、それは本当なのですか!?」
余りの事に、シャルロットは謁見の場だと言う事を忘れ、家族として聞いてしまっていた。
本来なら不遜な所行として注意されてもおかしくないのであるが、国王は気にしていない風に答えた。
「本当の事だ」
ジークは『
シャルロットの動揺について行けていない。
「なぁ、お姫さん。『
ヒソヒソ声でジークはシャルロットに尋ねる。
「ジーク、知らないのか!?『
エガリテ王国に10人しか居ない独立騎士の一人になったんだぞ!!」
シャルロットも守護騎士団の騎士団長である為、騎士の称号は持っているが、
あくまで守護騎士団は王国軍内の上位組織である。
騎士の称号もランクで言えば、中の上くらいである。
だが、独立騎士は騎士の称号の中でトップクラスの称号である。
この王国の対応にも思惑があった。
ジークの力量を見ていた国王や国防大臣が、ジークを王国に留まらせる為に称号を与えてしまおうと考えたのである。
ジークのガルムを倒した技は、他国に渡ると王国と他国との軍事バランスがひっくり返りかねないと考え、
ジークに対して待遇などで恩を売っておきたいのである。
「御拝命、謹んでお受けします」
ジークは心の中では「めんどそうだなぁ」と考えながら、国王に答えていた。
ここで、国王に逆らえる程、ジークも肝が据わっているわけでは無かった。
シャルロットもその功績から『
このことにより、シャルロットは王都ベルンの
2人が謁見の間から退出すると、国王の側近らしき人物から
報奨金やら
終わった頃には日が暮れてかけていた。
「ようやく終わったな、お姫さんや。もう、俺はクタクタだ」
慣れない格好をしていた事もあり、肩を揉みほぐしながらシャルロットに声を掛けるジーク。
そのシャルロットも騎士甲冑に着替えており、多少の疲れの色を見せていたがジーク程では無かった。
「その『お姫さん』というのは止して欲しい。仮にもジーク殿は私より位が上の方なのだから」
規律に厳しい騎士団に居た為、上の位の人に対する礼儀もあるのだろうが、
今までの事がある為中々上手く話せていない。
そんなシャルロットの様子を面白そうに見ながらジークは笑って答えた。
「ジークで良い。今更、呼び方を変えられても俺が困る」
「そんな事が出来るわけが無いだろう。独立騎士を呼び捨てに出来るわけが無い」
「俺は気にしてないんだけどなぁ」
シャルロットとしてはジークの申し出は嬉しくあるのだが、頭の中では騎士団の規律が廻っている。
相反する考えで混乱しているシャルロットにジークは提案を持ちかけた。
「じゃ、俺の事は今まで通り呼んでくれるなら、俺も『お姫さん』は止めよう。
シャルロット・・・はちょっと固い感じがするなぁ。シャルでどうだ?」
『シャル』と呼ばれた瞬間にシャルロットの顔は瞬間沸騰した様に真っ赤になった。
なぜ?と考えてもシャルロットには答えが出せないで居た。
が、不思議とそう呼ばれる事を嬉しく思う自分が居る。
「分かった、ジーク。それで行こう」
そう答えながら、シャルロットの顔は一層真っ赤になっていた。
だが、ジークがその顔に気付いた様子は無い。
(夕日に感謝だな。こんな顔、気付かれたら恥ずかしい)
そんな2人は王城の廊下を並んで歩いて行った。
「ガハハハハハッ、今日はめでたい日だ。飲むぞ〜♪」
既に3樽開けているガロードは、陽気に4樽目を開けようとしていた。
ジークが報奨金で買ってきた酒が、もう半分も無くなっている。
「いやはや、ガルムが出たと聞いた時にはヒヤッとしたが、ジークの事じゃ。
なんとかするとは思って居ったぞ」
ガロードが珍しく釣った魚をアテに飲んでいたガロードは、
心底信頼していた様でジークの事を褒め続けていた。
しかし、ジョッキをテーブルに置いて真面目な顔でジークに向けて聞いてきた。
「ジークよ、アレを使ったな?」
ジークはそのことについて言われる事を覚悟していた。
「あぁ、使った」
ガロードの目が鋭くなりジークを見つめる。
「アレの事が知れ渡れば、ジーク。お前の命が狙われる可能性があるのじゃぞ」
「分かってる、そんな事は。だが、使わなければ今ここに俺は居ない」
命を狙われる可能性が有る事を承知の上でジークは
本来なら魔力が吸われ続けて、戦う事すら出来ないはず。
しかし、ジークは
気付く者が居れば、研究と称した実験まがいの事をされる危険がある。
ジークの『デメリット無しに魔剣が使用できる』というスキルは、魔法士にとっては恰好の研究材料なのだ。
そのスキルを他人にも移す事が出来れば、国の戦力バランスが大きく変わる。
王国だけで無く、他国からも狙われる事になるのだ。
「まぁ、なんとかなるだろ。こっちにはじじいっていう切り札がある」
冗談めかしてジークがガロードに向けて返した。
「ホッホッホッ、こんな老いぼれを当てにするなどまだまだじゃのぉ」
ガロードは、ジョッキを再び持ち酒をあおりながら、笑って返答する。
そんなガロードから視線を外し、ジークは窓から空を見た。
空には、満天の星空があった。
(まぁ、こんな日が続けば良いんだけどなぁ)
ジークは、そんな事を想いながら空を見つめていた。
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