1-3. 闘技大会 - 予選 -
早朝、目が覚めたジークは愛剣を手に取る。
今日から、王都ベルンで闘技大会が開催される。
戦いへの高揚感からか、いつもより早く目が覚めたというわけだ。
身体を軽く動かして、万全の状態である事を確認する。
愛剣の手入れも昨晩行っている。
また、壁に掛けられている戦闘装束を見る。
黒い革に鉄片が打ち付けられており、ガロードにより魔導術式の編み込みがされている。
ガロードが今日の為に、1ヶ月前から準備していた戦闘装束である。
下手な甲冑より防御力は高く、着用者の身体能力も向上する一品。
編み込まれた術式は、3つ。
『
『
『
並の術者なら、これらを組み込むのに半年は掛かる。
それを、1ヶ月で組み込むガロードの力量が分かるというもの。
(じじいには感謝だな。優勝できたら酒でも大盤振る舞いするか)
もし、そうなった場合の後片付けを想像して、苦笑いのジークである。
どれほど酒樽を用意しても、飲み干すだろう光景は予想に難くない。
(まぁ、それも優勝してからの事だ。先の事より目の前の事に集中するか)
静かに立ち上がり、部屋を出て行くジークであった。
「闘技大会の予選に出られる選手は、こちらから入場してください。
観客の方々は、向こうの観覧席の入り口に向かってください」
係員が闘技場の周りで、人々を誘導している。
年に1回の闘技大会は、街の人間にとっては愉しみの一つの行事である。
街に居る限り、まず戦闘行為を見る事は無い為、闘技大会は人気イベントの一つである。
ジークは係員の誘導で選手用入口から闘技場へ入り、控え室へ向かっていた。
擦れ違う人は、係員の制服を着ていないのであれば、全員が選手と言う事である。
それぞれが、自分の得物を入念に点検していたり、準備運動をしていたり、様々である。
ただ、唯一共通なのは、各々の眼が歴戦の勇士である事を物語っている眼である事。
30〜40歳がほとんどの中、18歳のジークは場に浮いている存在である。
初参加と言う事もあり、皆ジークの力量を見極めようと視線が集中している。
(ふぅ、仕方ないだろうけど、ジロジロ見られるのは落ち着かないな)
ジークとしては、ここに居る選手全員の力量は大体分かる。
(うまく手加減できれば良いんだが・・・)
こんな事を考える余裕がある程、ジークと他の選手の力量の差があるのである。
ガロード相手に戦ってきたジークにしてみれば、ここに居る選手達は可愛げのある部類である。
本気を出せるとしたら、シャルロット位であろうとジークは考えている。
「ただ今より、本年の闘技大会を行いたいと思います」
司会の宣言により、大会は始まった。
予選は、全4組で行われるらしい。
ジークは、第2組に割り振られていた。
第1組には、シャルロットが居る。
様子見のつもりで、ジークは選手の控え室の窓から闘技場を見た。
闘技場は、中心に直径100m程の円形の戦闘場があり、その周りを観客席がぐるっと囲んでいる。
観客席の正面には一画、豪華な装飾を施された場所があった。
どうやら、王族が観覧する際にはそこを使用するようだ。
国王や王族が観覧するのは本戦からの様で、今は誰も居ない。
歓声が起こったので、ジークは戦闘場に目を向けた。
シャルロットが入場してきたのである。
国民からもその美貌と華麗な剣技から、とても人気があるシャルロット。
歓声に応えるように、観客席に手を振って歩いている。
一方、そんな様子が面白く無さそうな他の選手達。
中には名立たる戦士が居るのだろうが、シャルロットの前では意味を成さない。
国民の誰もがシャルロットが勝つ事に疑問を持っていない。
(さすがに、あれは他の選手が可哀想だな)
そんな様子を見ていたジークは苦笑いを浮かべる。
そして、司会の合図により、第1組の試合が開始された。
ほぼ全ての選手が一斉にシャルロットに襲いかかった。
打ち合わせをしていたわけでは無いだろう。
シャルロットの力量を識っているから、先に潰そうと全員が考えた結果である。
だが、選手達の目論見はあっけなく外れる事になる。
29人の大人数を前に、流れるように剣を抜き、駆け抜けていくシャルロット。
その剣技は、演舞を見ているかのような光景だった。
先頭の選手の剣を受け流しながら、胴を一閃し切り伏せ、その勢いのまま次の選手に向かっていく。
2人目の選手の斧を受け止め、はじき返しざまに右肩から左腰までなで切る。
その後、3人同時の剣がシャルロットに迫るが、紙一重で避け、3人を一刀のもと
斬り抜ける。
シャルロットが通り抜けた後には、倒れ込んだ選手が居るのみ。
相手の剣を、ときに受け、ときに流しながら、続々と選手を倒していく。
魔法詠唱を行っていた後方の選手が、魔法を発動しようとしたときには、
既にシャルロットの間合いの中であった。
発動した
シャルロットが立ち止まり、剣に付いた血を振り払った時には、
29人の選手が倒れていた。
魔法を使用せず、剣技のみでこの強さである。
魔法も交えた際の強さは圧倒的と言える。
「第1試合、勝者シャルロット選手!!」
上位2名が本戦に上がれるはずの予選で、1人だけ呼ばれる勝利のコール。
シャルロットの強さの証明である。
観客は、目の前で起こった事に言葉を失っていたが、
次第に歓声がわき起こり始める。
あまりの事に、見ている皆が事実を認識するのに時間が必要だったのだ。
沸き上がる歓声を背に、シャルロットは戦闘場を後にする。
次は第2組、ジークの番である。
「第2組、試合開始!!」
司会の合図で、ジークの組の予選が始まった。
第2組では、複数の戦闘が同時に発生し、乱戦の様相を呈していた。
ジークは、一息吸い込むと戦闘場を駆けた。
約20mは離れていたはずの10人の集団に瞬時に飛び込むと5人を袈裟切りにし、
残り5人がジークを認識する前に、流れるように剣を奔らせ切り伏せる。
ジークが10人を倒した時間は1秒も掛かっていない。
観客には一瞬でジークが切り倒した様にしか見えて居らず、
控え室に居た他の選手も、ジークの剣尖が光の筋で奔ったようにしか見えていない。
常人の域を遙かに超えていた。
また、ジークは森での狩りで鍛えた
体術の奥義に分類されるそれは、自身の気配が周囲に感知されづらいという特徴が有る。
ジークは、森での狩りをしていた為、この技能が自然と身に付いていた。
その為、他の選手もジークの姿が見えてるはずなのに、そこに居る事を
認識出来ていない。
他の戦闘集団が、斬られた10人の声を聞いた時には、
ジークの姿はそこには居なかった。
続々と選手の悲鳴が聞こえるが、当の斬っているジークを追えていない為、
戦闘場の選手は何が起きているか理解が追いついていない。
そうして、全ての集団をジークが駆け抜けたときには、誰も立っている者は居なかった。
「・・・・・・・・・・・・」
観客も控え室の選手も声を失っていた。
「第2試合、勝者ジーク選手!!」
司会が我に返り、勝者のコールをあげる。
それを聞き、納刀しながら控え室に帰るジーク。
2試合連続で、勝者が1人。
余りの事に、歓声を上げる事を忘れた観客達。
それほどまでに、圧倒的な試合展開だったのだ。
その後、第3組・第4組の予選も行われ、計6名の決勝進出が決まった。
順々決勝は、以下の結果になった。
第1組 ・・・シャルロット選手の不戦勝
第2組 ・・・ジーク選手の不戦勝
第3組 ・・・エルマール選手が勝ち上がり
第4組 ・・・ルージュ選手が勝ち上がり
この結果の後、抽選が行われた。
明日の準決勝・決勝の組み合わせを決める為だ。
その結果として、シャルロット選手 vs エルマール選手の組と、
ジーク選手 vs ルージュ選手の組に分かれ、それぞれの勝者が決勝で戦う事になった。
ジークがシャルロットと戦う為には、決勝まで行かなければならない。
それぞれの選手が思い思いの夜を過ごし、夜が明けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます