第5-4話 停戦と安堵
……と、いう夢を見た、のだろうか。
「う、うーん……」
「あ! 【勇者】様が起きたよ!」
「あれっ、後頭部がゴリゴリする……」
同じような体験をした後、俺はとても柔らかくて幸せな寝心地の枕を得ていたはずなのだけれど、今回はどうもそうじゃないらしい。
もしかして、夢の中の夢……?
「エリオットくん、目を覚まさなかったらどうしようかと思ったわ……」
夢で聞いたような、少し違うような気がするセリフが聞こえて、ごりごりと首をひねる。そこには心底呆れた表情のサファイアさんが居た。隣には同じような表情のキャミーとツィータが座っている。
針のむしろのような気分で、逆を向いた。地味に頭が痛い。
「フン。あれで気を失うだけで済むなんて、どんな石頭なんだ貴様は……」
クロイツェルも夢のようなセリフを言うが、やはり少し違う。隣でコーロが心配そうに目を潤ませている。
俺はどうやら現実で気絶していたらしい。記憶を辿るに、ゴーレムに踏みつけられたせいだろう。
辺りは薄暗く、結構長い時間眠っていたようだ。
しかし、ゴーレムと対峙した場所はこんなに狭い場所だっただろうか。
のそりと起き上がる。
「ここ、どこだ……?」
見回せば、サファイアさんたちと、クロイツェルたちの後ろにそれぞれ土の壁がせり上がっており、長く高くのびていた。起き上がった俺の前後には、どちらも遠目だが、坂道と、逆方向には門が見える。天を仰げば土壁の縁から木々がちらちらと見え隠れし、空が赤らみはじめているのもわかった。そんなに時間は経っていなかったらしい。
「フン。魔女が作った土壁の間だ。ナナシ林道と【ネルベラ】の間に伸ばしてある。しょっぱい風遊びしか出来ないかと思ったら案外やるもんだ」
「私の魔法はそんなにヤワな威力じゃないわ!」
「チッ、それならゴーレムに向かう前に発動しておけヘッポコ魔女が……!」
「うっ……そうね。その通りだわ……」
いつも通り口の悪いクロイツェルをコーロがジェスチャーで宥める。クロイツェルは「フン」と鼻を鳴らし、押し黙った。
「ゴーレムは……?」
「【勇者】様が大体ぶっ壊したからあとはミィがバラバラに砕いたにゃ。再生しかけてたところをツィータんがナイフでガリーって殺ったにゃ!」
「そうなんだ……」
キャミーがにひひと笑う。ツィータは俺と目が合うと、ふいと逸らした。
「……【勇者】、やるじゃない」
「え? なんて?」
「……なんでもないわよ」
小声で聞き取れなかったが、悪口か何かだろう。キャミーやサファイアさんが薄く笑っているあたり、聞き直したら傷つくような気がする。
それ以上は問い直さず、もう一度、半円分、目を滑らせた。
「ゴブリンとコボルトはまだ眠ってるの?」
「眠り香の効果はある程度続いてると思うけど、何かが動いてる音はするからきっと起きてる個体もいると思うよ。戦闘しないに越したことはないから、そのまま注意だけしてるところ」
「そっか、そうだな」
コーロの言うとおり、ゴブリンとコボルトは放置するのが得策だろう。
そうなれば、あとは【ネルベラ】まで一本道。何も障害はない。
「よし、それじゃあ――」
ゴ、オオオオオオオオオオオオ!
雄叫び。
ウ、オオオオオオオオオオオン!
遠吠え。
そして鈍い衝撃音がしたかと思うと、前方左右の土壁が吹き飛んだ。
「きゃああああっ!」
「な、何? 何っ!?」
「チッ、何だ!?」
「私の土壁を破った……?」
「にゃあっ! 何かいるにゃっ!」
銘々、驚いている様子だ。
「ですよねー」
土煙立ち込めた先には大きな二体の影。
何故だろう。俺、こういうの慣れてきた。
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