第5話 よつどもえでたたかおう!
第5-1話 ナナシ林道と三つの砦
昼食に丸々猪のソテー、トモロ草添えを平らげ、俺たちは洞窟を後にした。
セドル街道に戻りしばらく歩いていると、林道に入った。ナナシ林道という場所らしい。地面は大分均されているが、両側の林は鬱蒼とし、たまに動物の鳴き声も聞こえる。
メンバーを見回すと、魚の魔物の件があったからか、雰囲気がピリピリしているようだった。こんなときは適当な話題を持ち出すのが一番だろう。
「いやー、昼飯も美味かったなあ」
「あっそう」
ツィータの生返事の後には誰も言葉を続けなかった。
皆、一様に沈んだ表情をしている。
めげてはならない。こんなときこそ、【勇者】の腕の見せ所だろう。
「いやー、サファイアさんの《テスラボルト》の威力はすごかったなあ! あんなの」
「あんな威力のものをエリオット君に当ててしまうなんて、私はなんて最低なの……」
……使える人がいれば、魔物への警戒なんてそうしなくていいんじゃない?
ダメだ、サファイアさんが完全に沈んでしまった。
あとでフォローするとして、他のメンバーを褒めることにしよう。
「いやー、コーロの調剤は本当に助かるよな! どんな」
「どんな薬より、必要なのは戦闘力じゃないのかな……」
……傷を負っても、安心だよな。
ダメだ、コーロも自信をなくしてしまった。
うーむ、方向性を変えてみよう。
「いやー、ミィがいれば」
「ミィがいながら【勇者】様を危険にさらしてしまったにゃ……ミィなんて消えてなくなってしまえばいいのにゃ……」
……みんな明るくなるから、いつも通りに戻って欲しいな。
キャミーは猫耳をぱたんと閉じてしまった。
最後の頼みの綱はクロイツェルだ。
「糞糞糞糞糞……こんな体たらくで【勇者】になるなどと言っていたのか俺は……軟弱軟弱軟弱……もう二度とあんなことは起こさせない……不眠不休で監視を続ける……」
一番重症だった。
どうしたものかと思案していると、上り坂の先に岩のようなものが見えた。遠目だが、歩いていくとそれが石造りの建物であることがわかった。
坂を登りきると、景色が開け、建物の全貌が見えた。
「砦……?」
簡素だが、木の柵に囲まれた岩の砦が横並びに三つ見える。
砦は鈍色、青灰色、黄土色で、それぞれ柵で囲まれていた。
右手にある鈍色の砦の周りには、二足歩行で背の低いヒトのような形の生物が数匹ウロウロしていた。肌は灰色、鈎鼻に細い目で、腰回りにぼろぼろの布を巻き、一様に巾着袋を下げ、棍棒や錆びた剣を携えている。
「あのちっこいやつらはなに?」
「ニビゴブリンよ。小鬼とも言うわね。【勇者】のくせにそんなことも知らないの?」
「はは、面目ない」
ツィータに呆れた顔をされるが仕方がない。こちとら十六年もののお坊ちゃまなのだ。
左の砦は青灰色で、所々に開いた枠だけの窓から、青白い、耳の長い犬のような顔が覗いている。
「あの犬みたいなのは?」
「ヌルコボルトよ。犬面って呼ぶ人もいる。あんた本当に何も知らないの?」
面目ない。
気まずいのでツィータから目を逸らし、砦の観察を再開する。
中央の黄土色の砦は他の二つよりやや背が低く生物の気配はない。他の二つと違って、一見だけでは入口も見当たらない。砦というより、岩か土が固まった自然物のようにも見える。周りには、乳白色の岩や、割れた木材のようなものがいくつも落ちており、砂埃が舞っていた。
「真ん中の黄土色の砦はなに?」
「黄土色? あそこは見張り台よ。あの地域はゴブリンとコボルトが縄張り争いをしているの。その真中を突っ切るのが近くの街への最短ルートなのだけど、魔物同士の縄張り争いの真っ只中を突っ切るのは危ないから、見張り台に常に兵士が居るのよ」
「へえ、じゃあ今日は珍しく休みなのかな? 誰もいないし」
【勇者】を決める祭典もあったしな、と一人で納得していると、今まで沈んでいた仲間たちが一斉に顔を上げる。
なんだよ、びっくりした。
「ウソ……見張り台が……」
「壊されているだと……?」
「しかも何だにゃ、あの土みたいな塊……」
「ゴブリンもコボルトもそれを警戒しているみたいね」
一気に臨戦態勢になった仲間たちに驚く。
それ以上に、会話についていけないのが悲しい。
「あのね【勇者】、多分だけど、あの塊の周りに散らばってるのが見張り台だと思うわ。何か異常が起こっているようね」
察してくれたのか、ツィータが話しかけてくれた。案外、仲良しになれたのだろうか。こっち向いてないけど。
遠くから、何かを叫ぶ声が聞こえた。声の方を見ると、鎧を着た三人の男たちががしゃがしゃとこちらに向けて走ってくる。
「あんたたち【勇者】一行か!? お願いだ! 助けてくれ! 見張り台が壊された!」
「いきなりでかいゴーレムが現れて、ゴブリンもコボルトも俺たちも、見境なしに襲ってきたんだ!」
「このあたりにいるような魔物じゃないのに、わけがわかんねえ! でもどうにかしないと王都への道が一本使えなくなっちまう!」
仲間たちがコクリと頷き、俺の方を見る。
先刻とは打って変わって、俺の言葉を待っているようだ。
へへ、やっぱりいいな、【勇者】ってのは。
皆の期待に応えないとな。
「安心しろよ。ゴーレムは絵本で見たことあるからさ!」
仲間たちが明らかにゲンナリしている。
なんでだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます