第4話 つぃーたがなかまになった!

第4-1話 ツィータと料理

 赤い目、白い肌、白い髪の彼女は――


「ツィータよ。よろしくする気はないわ」


 ――泣き腫らした目で、俺たちを睨みつけている。

 俺たち【勇者】一行はメンバーを増員したその日の夜中にこっそりと【タクラマカン】を後にし、【アルキエスタ】の人々に見つからないように街の外に出た。悪いことをしたわけではないが、なんとなくばつが悪いのでなるべく見咎められないように再出立したのだ。

 俺たちの中での――通称「クソテーブル事件」で、不幸にも職を失ってしまったツィータに俺たちが出来ることといえば、新たな就職先を斡旋することくらいだった。斡旋先も一つしかない上、ツィータにとっては決して好条件とはいえない職場だが。

【勇者】一行は斡旋業者としては三流もいいところらしい。

 昨日まではレストランとしてもド三流だったが、大型新入社員のお陰で倒産を免れた。


「あんたたちのせいよ……いい職場だったのに……」


 件の大型新人社員その人のツィータは悪態をつきながら、目尻に涙を溜め、両手には木製の椀とおたまを持っているという不自然極まりない構図だ。


「フン。当然の報いだ……!」


 彼女に厳しい言葉を投げつけるのはクロイツェル。朝日に照らされた特大のたんこぶが眩しすぎて直視できない。

「クソテーブル事件」の翌日である今日の朝はこの二人を除いていい朝だった。冒険の最大の難所を乗り越えられたのだから、なるほど納得である。

 昨日の出来事があってから、これも当然ながらクロイツェルとツィータの仲は最悪だったが、きっとそのうち仲良くなってくれることだろう。


「黙れクソテーブル……! 元はと言えばあんたのせいよ!」

「なんだとこのアバズレ……! せっかく誉めてやろうとしたのに最後まで聞かないからだ……!」


 ……きっとね。


「ツィータちゃん、このスープ美味しいわね。何が入ってるのかしら?」

「……ただのじゃがいものポタージュよ。山羊のバターと塩コショウと……」


 サファイアさんが助け船を出してくれて、和やかな雰囲気に落ち着いた。

 本日の朝食はライ麦パンとじゃがいものポタージュ、野うさぎの丸焼きだ。

 野うさぎとかがいるなら、昨日だって無理してセドルスネークを食べなくてもよかったんじゃないか、という思ったが、結果としていい料理人を仲間に迎えられたのでよしとしよう。


「【勇者】」

「ひぇ? 何っ?」


 ツィータにいきなり声をかけられたので、変な声が出てしまった。少し邪なことも考えていたので余計に心臓の鼓動も早くなった。


「……美味しくない?」

「え、あ、いや。すげえ美味いよ」

「……そ。ならいいわ」


 色々と質問する間もなくそっぽを向かれ、何故かキャミーにラリアットをかまされたので、ツィータと俺のはじめての会話はそれきりとなった。

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