第2-3話 二度目の酒場と出立
「まったく【勇者】様は皇女様にすぐデレデレするんにゃから!」
「面目ない……」
キャミーが明らかに酔った様子で、ゴブレットを机にゴンゴンと叩きつけながら俺に食ってかかる。完全に目が据わっていて怖い。
昨日使った酒場を俺たちは今日も貸し切っていた。ここを貸し切って、タダで飲食できるのは王様の計らいらしい。ありがたい話だ。
相変わらずここの主人が作る料理は美味い。今日のパスタは特に絶品だったので、思わずハグしてしまった。厨房にいた従業員らしき女の子から、白い目で見られたのが魚の小骨のように胸にチクチク刺さったが、とにかくそのくらい美味だったのだ。席に戻るとすでに平らげられていたので俺は泣いた。
「フン、そんな有様で魔王を倒せるつもりでいるのか? 装備を揃えるというのは冒険の第一歩を踏み出すための準備に過ぎないんだぞ。それを……」
「冒険の第一歩を踏み出す準備……いいなその響き……!」
「チッ、このお気楽野郎……」
「そうだ、クロイツェル。足鎧と服、譲ってくれてありがとな!」
「……フン、別に、使わなくなったやつをくれてやっただけだ」
「にゃ!? クロちゃんばっかりズルイにゃ! ミィだって【勇者】様にバンダナあげたにゃ!」
「おう、キャミーもありがとう!」
「ふにゃ……ハッ! ミィのことはちゃんとミィって呼んで欲しいにゃ! バンダナのお礼を要求にゃ!」
そうだな、年上として、敬意も払わないと。
「わかったよ……ミィさん」
「あ?」
「ひい!? み、ミィ! これでいい!? これでいいよね!?」
「それでいいんにゃ!」
一瞬、キャミーの目が猫というか虎というかもっと獰猛な獣のそれになった気がした。
しかし、彼女はすでにいつもの屈託ない笑顔を浮かべている。
この世には、踏み込んではならない領分というのがあるようだ。
「ところで今日は、コーロがいないよな。クロイツェル、酔い潰れても誰も助けられないから気をつけろよな」
「ここで貴様を亡き者にして俺が【勇者】に繰り上がってやろうか……?」
クロイツェルの冗談はさておき、本当にコーロはどうしたんだろう。
買い物の途中から姿が見えなくなり、結局夕飯にも顔を出さない。
「コーロくんはご家族と一緒に夕飯をとられるそうよ。今日が最後だから」
「ああ……」
忘れかけていたが、人間にとって魔王を倒しに行くということはそういうことなのだ。
国王曰く、前年までの【勇者】たちは誰も帰ってきたことがないのだという。
そろそろくじ引き制は廃止した方がいいと思う。
もしくは俺達が父ちゃんと話し合って解決すればいい。
何にせよ、今年でこんなイベントは終わらせる。
そうして俺たちは夜を明かし、翌朝にはコーロとも合流して、冒険に出発したのだった。
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