全部水に流せたらいいね③
「もー、大げさなんだから二人共」
「大げさにもなります! 姉さんは私の体のこと知ってて、そういうことするんですもん! そりゃあ私にとって恋愛対象は、その、女性ではないですけど! だからといって、自分の性に完全に折り合いがついた訳じゃあないんですよ!?」
「そうだそうだ! もう少し加減ってものを知ってください!」
「はいはーい。ごめんなさ~い」
くそ、終わったことだからこれ以上は蒸し返さないけど、やっぱりこう余裕しゃくしゃくって態度取られると悔しいな。
煮え切らない感じでお湯に沈むワタシたちに、リィルはニヤッと口角を上げてズイッと体を寄せてきた。
「そ・れ・にぃ。ゼタはこんなおっきいのつけてて、そんなこと言われてもねぇ。ちょっと説得力ないかなぁ。一緒に住んでた時よりだいぶ育ってるよね~」
「んなッ!?」
リィルがゼタさんの後から手を回し、大きなお山をポヨポヨ弾ませた。
おお、見事なまでに揺れますね。ワタシが『俺』の状態だったら一瞬のガン見から、慌てて目を反らすまでのムーブを完璧に熟してみせたっていうのに、悲しいかな今は「すっごぉ」しか浮かんでくる感想がない。
「もうしないって、さっき言ったばっかりじゃないですか! なんで舌の根も乾かないうちにまたこういうことをッ!? ちょっと、姉さん!」
「ん~? だってさっき何をしてもいいって言ってたじゃん。それにしても……うっわ。本当にすっごいね。どうしてこんなに大きくなっちゃたの?」
「知りません! 私だって、好きでこんなに大きくなった訳じゃないです……」
ゼタさんが胸を両手で庇うけど、隠しきれていないし色々と零れてる。こうも大きいとエロいなと思うより先に感心がくるのは、ワタシが心の息子まで亡くしてしまったからなのか。
いや、それにしてもホントに凄い。大きいと浮くって本当だったんだな。
「でも、そんなに大きいと大変でしょ? 動くのにもすんごい邪魔になるだろうし、私ぐらいでも邪魔だなって思うときあるからね」
「そう! そうなんですよ! よく小さい人に羨ましがられますけど、とんでもない! 私がどれだけこれ以上大きくならないように、小さくなるように願ったか!
それもこれも、この無駄に大きな贅肉のせいです!」
「ねー。蒸れるし重いし、激しく動くと痛いだけじゃなくて、服を壊しちゃうもんね。ブラのホックとかすぐに変形しちゃうでしょ?」
「本当に! なんでって言いたくなるくらいすぐに壊れるんです! しかも作りのしっかりしたものほど可愛くないんですよ。
そりゃあ、構造とか素材とかで強度を確保しなくちゃいけないのは分かるんですよ? でも、普段から鎧とかゴツイのしか着れない分、肌着くらいお洒落なのを着けたいじゃないですかぁ!」
ふーん、へー、そうですかぁ……ワタシ、ここにいて大丈夫ですかね?
女子会に一人だけ男が放り込まれたときのシチュですよ、これ。
いや、確かに
ワタシもスポブラらしきものはリィルに無理やり着けられてますけど、でもそれはワタシに衣服の決定権どころか着脱権すらないからで、自分で好んで着けてる訳じゃないんだよ。
ワタシだって……ワタシだって自分で着る服ぐらい自分で決めて着替えたいよッ!
でもリィルが……リィルがぁ!
フッ、ワタシには諦める以外の選択肢はなかったのさ……。
――この風呂のお湯、妙に沁みるなぁ。
「んん~。私が作ってあげてもいいんだけど……でも、強度の部分とか着け心地で肌着の専門店よりいいものが作れるとは言えないしなぁ。こればっかりは諦めて、消耗品って割り切るしかなあいかもね~」
「ううぅ、出費だって馬鹿にならないのにぃ。
……イディちゃんはいいですよね。そういう悩みとは無縁そうですもん。今日着けてたショーツだって、凄い可愛いかったですし」
おおっとぉ、こっちに飛び火してきましたよ。水場だってのどうなってるんですかね?
対岸と思っていたのに、いつの間にか火を抱えて渡ってきたゼタさんが、唇を尖らせて凄く羨ましそうに……いや、これはもう恨めしそうって感じの目つきでワタシの体を見つめてくる。
でも、そんなに情熱的な視線をもらっても反応に困るわ。元男の立場から言わせてもらえるなら、この体だってそんないいことばっかりじゃないんですよ?
歩幅がクッソ狭いから、なんか必要以上に運動量がかさむ気がするし。
まぁ、そんなこと言えるはずもないから、愛想笑いで誤魔化すしかないんですけどね。
「はは、そうですかね? でも、ゼタさんはすごく綺麗な体してるじゃないですか。体毛も真っ黒でツヤツヤしてるし、凛々しいゼタさんの雰囲気とピッタリです。オロアちゃんなんかゼタさんのこと話しだすとテンション上がって止まらないですよ?」
「あの子は私に対してちょっと夢見がちなんです、そこが可愛くもあるんですが……。でも綺麗って言ったら、イディちゃんの方が綺麗じゃないですか。
顔とか腕とか、ちょっとビックリするくらいムダ毛ないですし。尻尾の毛だって凄く滑らかなのにふわふわで……胸も小さいし」
「えっと、その。……なんですかね、ははは。ワタシは大きいのも女性的でいいと思いますよ?」
頬を伝って汗が流れていくけど、これはゼタさんの
「で、でも! さすがにもう成長期とかも過ぎたでしょうから、ゼタさんもそれ以上大きくなるようなことはないんじゃないですか?」
「……ったの」
「へ? な、なんですか?」
「先月測ったらワンサイズ大きくなってたのッ!」
涙を一杯に溜めたゼタさんが両手をブンブン振って水面を叩きながら、駄々っ子みたいに詰め寄ってきた。
ええ……まだ成長途中ですか、そうですか。
「……諦めては?」
「ヤダヤダぁ! 私だってイディちゃんみたいに可愛くってフリフリの洋服着たいもん! 外じゃあ鎧とかばっかなんだから、せめて部屋着くらいお姫様みたいなドレスがいいのぉ!」
「それ言ったら、ワタシだってもっと動きやすさを重視した、ズボンとか無地のシャツとか着たいですよ! 鎧が似合うなんて羨ましいですよ! 恰好いいじゃないですかッ!」
ワタシが鎧なんて装備しようもんなら、悲惨なことになるのは見るまでもない。五月の節句に少年が装備する紙兜の方がまだ様になるだろう。
ワタシとゼタさんは互いに一歩も譲らず、至近距離から市長をぶつけ合った。
「ドレスぅ!」
「鎧ぃ!」
なんて強情な人だ。絶対に鎧の方がいいだろう。ドレスなんて無駄にゴテゴテと装飾ばっかりついていて、動きづらいったらないだろう。
それに比べて儀礼用とはいえ、
ゼタさんがいくら涙目で訴えてきても、ここは譲れないのだ。わきまえてもらおうか!
「まぁまぁまぁ、二人共。そんな熱くならなくても」
「ううぅ、お姉ちゃ~ん。ヒック」
「そう泣かないの。今度また部屋着用のドレス作ってあげるから」
「ワタシには無地シャツと短パンを」
「それはダメ」
(なぜッ!?)
どうして誰も機能性の美しさを理解してくれないのか……。
いや別にフリルとかレースが悪いとは言わないけどさ。でもさ、それは本人が望んでいればの話ですよ。一向に望んでない、ワタシは一向に望んでないッ!
未だにスカートすら恥ずかしいっていうのに、ドレスとかもう……着ているだけで羞恥のあまり発火できそうなほどですよ。
「大丈夫だよ、ゼタ。イディちゃんはこれからだもん。
ゼタくらい大きくなるかはなんとも言えないけど……そ、それでもあと数年もすれば、ずっと女性らしい体つきになってるよ。そうなったら、そういう悩みだってでてきて、ゼタの言ってることだって分かってくるよ!」
その慰め方もどうなんだ? というかだ、
「いやいや、ワタシの成長期なんてとっくに過ぎてますよ?」
「……へ?」
「……今なんて?」
ゼタとリィルが当時にこちらも見つめて固まったけど、何をそんなに驚いてるんですかね?
そりゃあそうでしょう。だって――、
「ワタシ、今年で二十九ですよ? これから成長期とか、ハハッ」
冗談が過ぎますよ、わきまえてください。ってあれ? どうしたんですか、二人共。顔が今までにないくらい、崩れて、
「「え、えぇーーーッ!?」」
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