言葉にできない
本来の課題に戻ろう。
このままモーラ数や母音を研究し「シェイクスピアそっくりさんコンテスト」を開催するのも、確かにやぶさかではない話である。
(意訳:べ、別にやりたくないわけじゃないんだからね!! むしろ優先してやりたいくらいなんだから!!)
……だが、主旨はあくまで「シェイクスピア」を出力することだ。一文字でもずれてはならない。
約5億2500万行の文字列を出力しても、五文字一致が僅かに2件。誤算があったにせよ、五、六時間かけた結果がこれだけでは足りない。
六文字一致の確率は約467億分の1――あれだけ苦戦した五文字一致の、更に249分の1である。フ〇ーザで例える必要性すら感じられない。
この上で、更に変身を一回残しているわけだ。このままの状態では終わる気がしない。
こういった組み合わせ爆発の問題における、最も手っ取り早い解決方法は『無駄な組み合わせを削除する』というものだ。
掛け算による増大の仕方は、元の数値に大きく依存する。そして、掛け合わされる程にその差は大きくなっていく。
83文字の中で1文字でも削ることが出来れば、7文字を取り得るケース全体の83分の1――約3269億4000万の「起こり得る」ケースを取り除くことが可能となる。
本末転倒じゃないか、という意見もあるだろう。
だが「ャェアーーァッ」というフレーズがこの先、何らかの文献で参照されることがあるだろうか。
もちろんゼロではない。というより「ゼロである」と言う資格がない。それは、「この世に悪魔がいない」ことを証明することに等しいからだ。
だが、限りなくゼロに近いとは断言できる。少なくとも、猿がハムレットをしたためる確率よりも、ずっと低いことは。
理由は様々あるが、そもそも「ャェアーーァッ」は、発音出来る文字列ではない。
書くことは出来ても、読むことは出来ない。
そしてそんな文字列を「言葉」として後世に残す必要性など全くない。造語にしたって、(物理的に)読めるようにはすべきだ。
(この検証では、動物の鳴き声や環境音、機械語、またはヒト以外の種族の言語、くとうーるふなどの観点を考慮していません。ご了承ください)
というわけで、「言葉にできない」ものを、出力パターンから取り除くようにする。
猿がランダムにタイプライターを叩く、その大前提は変わりない。
ただし、機械側には細工を――いわば「ロック機能」と呼べるものを追加する。
例えば、最初の文字に小文字(ァ、ャ、ッなど)や長音符(ー)は入らない。これらの文字は、直前に文字が入らなければ機能しない。
だから、該当文字については、一文字目の乱数生成から除外する……といった具合だ。
ただこれだけでも、一文字目の候補から11文字(ァ行、ャ行、ヮ、ッ、ー)が取り除かれ、結果的には約3兆5963億通りが消えることになる。
今のマクロ実行速度が「1時間に約1億回」として、網羅にはおおよそ36000時間(1500日)かかっていたところだ。
闇雲に行動する前に、まずは考えることが先決か。
機械仕掛けの猿は、与えられた命令をこなすことしか出来ない――適切な命令を出すのは、人間の役割になる。
(余談)流石に1500日後には、この小説は書き終わっていたいところだ――E〇CELの月額払いもかさむだろうし。
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