第2話 黒と邂逅

「どこだ… ここは?」


辺りを見渡してもここがどこだかわからない

俺は自分の部屋に入ろうとして……その先が思い出せない

少なくともこんな石造りの部屋には心当たりはない。

ここはどこなんだ


「気がつきましたか」


銀の髪を腰まで伸ばした女性が俺に話しかける


「ここはどこなんだ?お前はいったい…」


言いかけたところで辺りを見渡す

この部屋はかなり広く作られているようで鎧を装着した人でひしめいていた

その中でも目に付いたのは玉座に座っている壮年の男性

そして玉座付近で佇んでいる五人の様々な服装をした人たち

その六人だけは異彩を放っていた


「ここはイルレオーネ。わかりやすく言えば異世界です」


異世界?そんな馬鹿な話があるのか?

死んで転生した、というならまだわからなくもないが俺は部屋に戻ろうとしただけだ

こんなところに飛ばされる理由はないはずだ

だがこんなところにいる以上信じるしかないだろう

これが異世界だと言わずしてなんだというのだ

今見えているこれは明らかに現代日本の光景ではない


「俺は異世界に飛ばされた……?」


混乱する頭で状況を整理する

さっきの話を信じていいなら本当に異世界に来てしまったようだ

だが理由がわからない

あの五人はこの時代の人間ではないだろう

明らかに俺と同じくらいの時代の人間だ

周りの兵士や玉座に座ってるやつとは服装が違いすぎる

どう見ても現代人のような服装をしているのだ

なら聞くべきことは俺がここに呼ばれた理由だ


「なぜ俺が呼ばれたんだ。悪いやつでも倒せっていうのか?」


「いいえ、あなたが呼ばれたのは違う理由です」


よくある『異世界モノ』とは勝手が違うようだ

現実はフィクションのようにそう簡単じゃない


「していただく事は単純明快『白の軍勢』と戦ってもらいます」


「白の軍勢?戦争でもしてるのか?」


俺は少しふざけた気持ちでそう言ってみせた

異世界に来てまで殺し合いはないだろう

そう踏んでいたのだが……


「えぇ、その通りです。現在我が軍『黒の軍勢』と白の軍は膠着状態にあります」


本当に戦争をしていたようだ

口ぶりからして『白の軍勢』は野生動物や魔物の群れのようなものではない


「戦争なんて俺ができる事なんてたかが知れてるだろう。俺に何をやらせようっていうんだ」


「まだ気づいてないかも知れませんがあなたには力があります。その力を振るって欲しいのです」


「俺にはそんな力はない……」


小さな声で俺はそう呟く

あいつにも負けっぱなしなんだ

呼ばれるなら俺よりあいつの方が適任ではないのか


「あなたには『剣士』としてこちらに呼ばれました。剣士としての適性があるはずなのですが……」


「一応剣道はやっていた。できない事はない」


…はず

実物の剣と竹刀は同じように扱えるのだろうか

少し不安はあったが呼ばれた以上はできるのだろう


「なら良かったです。召喚は問題なく行われたようですね」


「一つ聞いてもいいか?剣士ってのはなんだ?こっちに来た時点で職業が決まっているのか?」


「大方そのような感じです。」


成る程、彼女含めた五人は戦いのために呼ばれた人たちか


「近距離に特化した者、中距離を維持した戦いが得意な者、遠距離攻撃のできる者そのほかにも様々な能力があるのですがその説明はまた後ほど」


「で、俺が騎士というわけか。それでお前はなにができるんだ?」


「私の魔術師、魔法を得意としております」


魔法使いか

まるでファンタジーだな……


「あの玉座に座ってる奴を含めて七人揃ったのか?」


「いえ、その方は……」


……?なぜ口を濁すんだ

あいつはまた違うのだろうか


「俺と彼奴等を同列に見るとは余程見る目がないようだな」


今まで口を開かなかったあいつが玉座の上から俺に話しかける


「俺こそがこの『黒の軍勢』を率いる黒軍の王エドワード=グラスだ。覚えておけ」


尊大な彼の態度に少し反感を覚えるも嫌味のようなものは感じない

王の雰囲気を持ち合わせた王なのだということを思い知らされる

俺はそれ以上口を開くことができなかった


「他にないようだな。この先わからぬことがあるのならそこの女魔術師にでも聞くがいい」


こうして俺の異世界転生は幕を上げたのであった

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