第6話

「ねえガっちゃん、最近楽しいことあった?」


「人を何でも食べる空飛ぶ赤ちゃんみたいに言わないでくれる?」


「……?なにそれ、何のネタ?ガイドさんだからガッちゃんなんだけど……?」


 ジェネレーションギャップ!!いやまあ私もちゃんと見たのはリメイク版アニメの再放送だけどさ。


「まあそれは良いわ。ってか、あんた慣れ慣れしくなりすぎじゃない?」


「ガッちゃんは私のこと嫌い?」


 体育座りで膝に頬を乗せての横上目使い……なにこのグラビアみたいな美少女。


 いやまあ、目の前ではガラス越しに巨大なハリケーンであらゆるものが強風で空へと吹き飛ばされては落ちていく様子が展開されているので、そんなグラビア有る筈も無いのだけど。


「嫌い……ってことはないけどさ……」


 こんな関係をもう3カ月近く続けていれば、情も湧くと言うか……正直、会うのが楽しみになっている自分が居るのも確かだ。


「アタシも、ガッちゃんのこと嫌いじゃないよ?初めてアタシのことを理解してくれる大人に出会えた気がしてるから」


「……そんな恥ずかしいことを、真っ直ぐ目を見て言うんじゃないわよ。あんたモテるでしょ」


「うん」


 即肯定したわね…。


「だって、容姿端麗 頭脳明記 才色兼備に眉目秀麗、あらゆる褒め四文字熟語で表された経験のあるこのアタシですから、そりゃあモテもするわよね」


「そこに自画自賛も加えた方が良いわね……というか、文武両道、ではないのね」


「……運動が出来ない、という欠点がむしろ愛らしいでしょ?」


 ちょっとスネたようにそういう彼女もまた可愛い。私が男だったら今日の夜にでもラブレターの文面を考えるところだ。


「―――今さらだけどさ、その感じだとどう考えても日々が充実してそうなのに、世界を滅ぼしたい気持ちに変わりは無いの?」


「世間からの評価と、日々の充実はまるで違うものよ。あなたはアリがあなたを評価して集まってきたら嬉しいかしら?」


 世界の滅びる様子を見ながら、彼女の目も死んでいくのが解る。


「あなたにとって、世界はアリ?」


「アリならまだ良かったんだけどね。あらアタシ甘いのかしら?とかとぼける余裕も出来るだろうし」


「アーユースイートガール?」


「なにそれ、変なの」


 ふふっ、と笑った彼女の笑顔に少し安心する。若い子があんな表情で世界を見るのは、見てて悲しいもの。


「まあともかく、周りから見たら恵まれてるように見えるかもしれないけど、それはそれで辛いものなのよ。つまらない嫉妬も受けるしね。自分に責任が無いのに悪意を向けられるのは、世界を酷くつまらなくするものよ」


 さっきの自画自賛を見ていると、責任が無いとも言い辛い気もするけど……。


「おかげで、自分を守る方法ばかり覚えてしまったわ」


 ……ああそうか…あれが彼女なりの、自分を守る方法なのかもしれない。

 他人を信用できず、自分で自分を褒めることで、存在価値を確認しようとしていたのかも……なんて、そんなことを思った。


「ねえ、やっぱりちゃんと言っても良い?」


 私は、彼女の目を真っ直ぐ見た。


「…なによガっちゃん、やっぱりあなたも、私を否定する―――」


 その言葉を遮るように、私は言葉を吐き出した。


「私ね、あなたのこと好きよ」


「………へぁ?」


 驚いたのか、可愛いお口から変な声が漏れましたよ。


「あはは、なにそれ、へぁ?だって。かーわいい」


「だ、だってなに、いきなりそんな、何なのよ!」

 顔が真っ赤だ。触ったら火傷しそう。


「だってさっき聞いたじゃない。私のこと嫌い?って」


「そ、そうだけど、でもその、まだそんなにアタシのこと知らないくせにそんな」


「いやいや、もう出会ってから三カ月よ?しかもここ一ヶ月くらいは、異世界に行かないときでもほぼ毎日会ったり、LINEしたりしてるじゃない。それでよく知らないとは言わないわよ」


「でも、アタシその……家のこととか、そういうの全然話してないし、ガっちゃんの知らないことだってたくさんあるのに」


「そりゃそうよ、私だってあなたに話してないことなんてたくさんあるもの。でも、全てを話さなくても解る事はたくさんあるし、なれるものよ、友達にはさ」


「―――――友達…?アタシたち、友達なの?」


 きょとん、という顔を見せられた……あれ?違うの?


「いや、私もそんなにたくさん友達居るタイプじゃないからわかんないけど……私はそう思ってたよ……迷惑?」


体育座りのまま、立てた膝に顔をうずめて、彼女は呟いた。


「…………迷惑よ」


 ――――――うわぁ、ショックだ……私一人だけ浮かれてたのか…。


「だって―――」


 ……ん?


「だってそんなの、言われたこと無いから、どうしたらいいか解らないもん……だから、迷惑なの!!嬉しいけど迷惑なの!!」


 膝に隠れて表情は見えないけど、耳が真っ赤になってるのがハッキリと解る。


「ん~~~~!!!可愛いなもう!!」


 背中から包み込むように抱きしめる。


「や、やめなさいよ!迷惑よ!迷惑なのよー!」


「あはは、あはははかーわいーー!!」


 世界の滅亡を見つめながら――――私たちは、友達になった。

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