第5話

「ガイドさんはなんでこの仕事やってるの?」


 私たちは、何日にもわたって何度もいろんな世界の滅亡を見て回る中で、色々な話をした。


「ん~?……まあ簡単に言うと、就職に失敗してね。派遣会社に登録して、派遣で来たこの会社に、なんとか契約社員として滑り込めたってだけよ」


「つまらない理由ね」


「そ、つまらない人間はつまらない理由でつまらない人生を歩むのよ」


 言われるまでもなく、とっくに理解しているよ、私の人生がつまらない事なんて。


「けど、契約社員がこんな重大な秘密の仕事を任されても良いものなの?異世界のこと、知られたらマズイんでしょ?」


「それはまあ、アレよ。正社員が嫌がる仕事を押しつけられてるのよ。秘密をバラしたら大変なことになる、っていう脅迫みたいな契約書にサインさせられてね」


 子供にトラウマを植え付けて、吐瀉物の処理までさせられるこんな仕事、誰もやりたい訳が無い。


「何かあったら、責任とらせて首を切るのも楽だしね。一石二鳥でしょ?」


「陳腐な事を言うけれど……大人は汚いわね」


「もちろんよ、そして私も、その汚さに飲みこまれて汚れた大人の一人なの、がっかりした?」


「まさか、だって知ってたもの。知ってて利用してるのよ。願いを叶える為なら、アタシも汚れる。そういうもんでしょ?」


 部屋の中からガラス越しに、疫病で次々と人が死んでいくを見ながら発せられると、その言葉に説得力が増すような気もする。


 感染力が強いのだ、大人の理屈ってやつは。


 気付けばもう、手遅れになるくらいに自分の中に入り込んでいて、どうにもできない。


「そうね……でも、あなたには汚れて欲しくないと思うわ。真っ直ぐに世界を憎めるあなたで居てね」


「やめてよ、自己投影はアタシという個人の否定よ」


 バレてら。


「でも、アタシから見たらあなたもまだそれほど汚れちゃいないわよ」


「まさかぁ、どの辺が?」

 自虐と苦笑いの混じった私に―――


「アタシを否定しないところが、よ」


 そう言って笑う彼女は、初めて年相応の、15歳の少女に見えた。

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