第4話
遥か遠く、東と西から同時に発射された二発のミサイルが入れ替わるようにお互いの発射地点へと落ちて――――世界の滅びが始まった。
「戦争かぁ、ベタ中のベタだけど、参考にはならないんじゃない?」
「そうね、あまり美しくも無いし、現実的じゃないわ」
手を伸ばせば雲をつかめそうな高い山の頂上から、私たちは滅びる世界を眺める。
しばらくすればこの辺りにも爆風が来るだろうけど、その時は後ろのドアに入れば問題ない。
異世界へと続く部屋のドア。中に入れば、この世界の影響は全く受けない。
部屋の中からこちらの世界を見る事は出来ても、そこに空間の壁とも言えるものが有るので、ガラスが割れるどころか、衝撃を受けることすらない。
全く良く出来ている。なんでそんなものが旅行会社の一室にあるのかは知らない。私なんかに知らされるわけも無い。
そう、私なんかには……。
「でもこの世界、アタシたちの世界と似てるのね」
不意の彼女の言葉に、我に返る。
「ん?まあそうね、異世界だからと言って、全てがファンタジー世界って訳じゃないわ。私たちの世界と似たような文明が発達して、その文明の力によって滅びる世界もたくさんあるわ」
都市開発により自然を失い過ぎてバランスが壊れて滅んだ世界や、事故で核爆発のようなものが起きて滅びた世界もあるし、人工的に天候や地震を操って兵器にしようとして制御出来ずに滅んだ世界も見た。
「こういうの見てるとね、いつも思うの。私たちの世界だって、いつ滅びでもおかしくないんだなぁ……って」
「……なのに、どうして滅びないのかしらね。アタシたちの世界はきっと、理性的過ぎるのね」
「そうかしら、運が良いだけじゃない?きっと、何度もあったのよ、滅ぶタイミングは」
「だとしたら、運が悪い、の間違いね。とっとと滅んだ方が良いのよ、あんな世界は」
「そんなこと……あるかもね」
私は結局、彼女を手伝う事にした。
なぜそんなつもりになったのか、自分でもよく解らない。
「この世界があまりにも醜くて許せないから滅ぼす」
あの時に彼女が言ったその言葉は、言うなれば中二病のようなもので、大人からしたら鼻で笑い飛ばしてしまえるようなものだ。
けれど、彼女のあまりに真っ直ぐな瞳を見ていると、本当にそれでいいのか解らなくなった。
私も昔、世界を憎んだことが有った。
その時に最も私をイラつかせたのは、そんな私の言葉を真剣に聞こうともせずバカにする大人たちだった。
ここで彼女に対して、あの時憎かった大人と同じことをしようとしている自分が許せなかったし、なにより私は、
「そんなこと無い、この世界は素晴らしいよ」
と胸を張って伝えられるほどに、この世界から恩恵を受けてはいないのだ。
むしろ、彼女の言葉に「本当にそうだなぁ」と思っているし、昔世界を憎んでいた気持ちを思い出したくらいだ。
だからと言って本当に滅ぼしたいかと言われると……どうなんだろうとは思うけど、見届けたくなったのだ。
彼女が、どこにたどり着くのか。
全てを諦めて自分を殺し、ただ生きていくために仕事をしている私とは違う、別の道を見つけるのだとしたら―――――見てみたい。
それは、私にも起こりえた可能性だから。
そして、これからの私にも起こりえる、可能性だから―――。
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