02.隠し事はバレるもの

 アメノミヤ奇譚組が特に口を酸っぱくして言ったのが、「怪異の強さ」だった。何でもどちらの怪異もミソギの絶叫にびくともしなかったとの事なので霊符などでは足止めにもならないらしい。

 それを聞いただけでも足が竦むようで、南雲はぐったりと溜息を吐いた。しかも、恐らく霊符より役立つ絶叫先輩はいない。憂鬱な思いは降り積もるばかりである。


「あー、今からの事だがな」


 とこちらも若干の不安を滲ませている相楽が頭を掻く。


「取り敢えず、ミソギは見つけたら保護するように。ミコちゃんが関係してる、ってんだから公園の内部にいるかもしれねえ」

「ああ、了解しました」

「で、アプリで連絡を取り合うが名前を入れておいてくれ。今回は人数が多いからな。ログは後で消す予定だが、ものによっちゃ永久保存するかもしれねぇわ。探索範囲だが、パンフレットをざっくり縦に割って、2組で探索させる。単独行動は止めろよ」


 メンバーだが、と言い掛けた相楽を遮って十束がミコの手を取った。


「相楽さん、ミコの面倒は俺が見よう! 2人が固まると残りの1人が大変だろうからな」

「えっ。ちょ、待っ――」

「チッ。行くぞ南雲。相楽さんも早くして下さい」

「いや、おっさん、ミコちゃんのフォローするって会議室で言ったのに!?」

「貴方と巫女が固まっていると、残りの1人が苦労するので止めて下さい」

「ドライ!」


 相楽が何か言っているが、聞かなかった事にして南雲は早速公園の内部へ入って行こうとするトキの背を追った。盛大な溜息を吐いた相楽さんがのそのそと追い掛けて来るのが視界の端に写る。

 トキが勝手に北側の範囲を探索し始めたからか、十束とミコ、そして氷雨はそそくさと南側の範囲へと消えて行ってしまった。


 ***


「何か、雨降ってっとおどろおどろしい雰囲気ですね。そのぎ公園」


 ランニングコースに足を踏み入れた南雲が溢した言葉はそれだった。本来、公園とは人が集まる場所だが、人っ子一人いないその様は非常に不気味だ。脳と現実の乖離に怖気すら覚える。

 昼間で良かった、と謎の感謝をしながら顔を上げるとトキと目が合った。それはつまり、こちらをわざわざ振り返ったという事だ。


「貴様……『アメノミヤ奇譚』について誰から聞いた?」

「エッ!? あ、いや、なんで……」

「会議室でも現地でも、お前、事の概要を聞かなかっただろうが」


 ――た、確かに……!

 氷雨が口にするかと思われたが、誰も何も質問しなかったので全員事のあらましを知っているかのように話が進んでしまった事は事実だ。色々起こり過ぎていて、そこまで気が回らなかった。

 心中で反省していると、苛立ったようにトキが同じ言葉を繰り返した。観念した、とアピールするように肩を竦めて見せる。


「いやあの、資料室で……調べました」

「南雲、そりゃお前がか?」


 最後尾で話を聞いていた相楽の呆れ声が挟まった。余計な事を、と睨み付けると目を逸らされてしまう。


「誰に、聞いた?」

「えー、あのー、資料室で調べたってのはマジなんですよぉ! ただ、資料の場所は十束さんに聞いたけど!」

「アイツ……それ以外に、余計な事は言わなかったか?」

「何も聞いてねぇっす。でも、車の中でしてた話は筒抜けだったけど」


 トキが刺々しく舌打ちする。これは、かなりご立腹かもしれない。彼の苛立ちが態度に表れる前に誤っておいた方が得策だろうか。


「あー、トキせんぱ――」

「公園で、怪異を見掛けても一人で対処するなよ」

「え? あ、うーす。了解っす」


 ――怒らないっ!! 沸点が低いと評判の、あの先輩が、怒らない!?

 どころか比較的まともな言葉を掛けられて戦慄が止まらない。ミソギに対しては割と穏やかな言葉を掛けるが、自分に対してそれが適用されたのはかなり珍しいだろう。明日は霰でも降るのかもしれない。

 ちら、と相楽の様子を伺うと彼もまた鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。


 そういやよ、と相楽がスマホを取り出す。


「例のルーム立ち上げた赤札はどうなった?」

「俺も確認してみます」


 トキとはぐれないように注意を払いながら、スマートフォンのアプリを起動。ルームの様子を伺う。丁度、相楽がメッセージを打ち込んだ瞬間だった。


『相楽:そのぎ公園に着いたぞ。どの辺にいる? その場からあまり動かないで欲しいんだが』

『白札:お疲れ様でーす、組長』

『白札:さっきまで赤札いたんだけど、どこへ行ったかな?』

『白札:怪異がどうとか言ってたし、逃げ回ってるんじゃないの?』


 ルームは取り留めのない会話で埋まっている。赤札が何か質問すれば、アプリを見ている白札が応じるが、それ以外では事の考察をしている者が大半だ。

 ともあれ、ルーム主は浮上して来ない。


「何かあったんすかね。どこにいるか分からないと、捜しようが無いなあ」

「逃げ切れてるのなら、そのうち居場所を打ち込むだろ。気長に待つしか――お?」


 相楽が再びスマホに視線を落とす。南雲もまた、それに倣って画面を見た。白い吹き出しの中に1つ、酷く目立つ赤い吹き出しが混じっている。

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