02.???からの救援依頼

「――まあ、何でも良いか。それで、先輩は何をそんなに慌ててるんすか?」


 ミソギ先輩だって遅刻する事くらいあるでしょ、という意がこもっていたのだが南雲の言葉はトキにそう伝わらなかったらしい。ぴきっ、と分かり易く眉間に皺を寄せた彼は苛々と事の顛末を話し始める。


「昨日は休みだったが、今日から仕事が再開される。ミソギとは今この時間に支部で待ち合わせをしていたが、来ない上に電話が繋がらない」

「えー、何か忙しいんでしょ。ミソギ先輩だって子供じゃないんだし、まさかそんなに騒がれるような事になってるとは思えねぇっす」

「煩い、私の勘が、何かよく無い事が起きていると告げているッ!!」

「ええ……?」


 というか、と苦笑した十束が肩を竦めた。


「単純に寝坊とかじゃないのか?」

「死ね」

「えー」

「何回も電話を掛けたッ! ついでに家電にも掛けたッ!!」


 ――うわ、迷惑過ぎる……。

 せっかち老人の如くコールしまくるトキに戦慄を隠せない。自分がミソギだったならば、間違い無く電話を掛けてくるなと咎めているところだ。しかし、彼女も好きでトキに合わせている節があるし、その程度なら問題視しないかもしれないが。

 そうだなあ、と腕を組んで考え込んでいた十束が再び別の案を口にする。火に油でしかないので黙っていて貰いたいのだが。とはいえ、次に彼が提唱した意見は実に為になるものだった。


「相楽さんに聞いてみたらどうだ? 仕事は始まっている訳だし、何か事情があって休みたいのなら、まずは上司に相談しているはずだろう」

「どうだかな」


 憎まれ口を叩きつつもトキがスマホで相楽の連絡先を表示した――瞬間、支部内における館内放送が響き渡った。電子音の後に機械的な女性の声が、連絡事項を告げる。


『緊急連絡です。支部内にいる赤札の皆様は至急、第三会議室へ集合して下さい。繰り返します――』


 繰り返しの連絡をボンヤリと聞く。これはもしかして、支部内の赤札に自分も含まれるのだろうか。


「あの、これって俺等も――」

「ああクソ、忙しい時にッ!! ボサッとするな、さっさと用事を終わらせるぞ!!」


 すでにソファから立ち上がっていたトキに急かされて、南雲もまた立ち上がった。どうやらやっぱり自分も会議室へ行くメンバーに含まれているようだ。それにしたって、このふんわりとした呼び出しは一体何なのだろうか。誰でも良いから早く来いと言わんばかりである。


 ***


 ――急にそのぎ公園に迷い込んじゃったみたい。誰か助けて。


『白札:おい、誰だよこの悪戯みたいなタイトルのルーム立ち上げたのは』

『白札:そのぎ公園て……。立ち入り禁止だ、つってんだろ。警備員立ってるじゃん』

『白札:おーい? ルーム主どこよ。何、やっぱり悪戯?』


『赤札:ごめんごめん。ちょっと落ちてた。別に好きで入ったワケじゃなくて、気付いたら公園にいたんだよ。警備員とか立ってるの? その辺もよく分からないし』


『白札:はぁ? もしかしてツバキ組合の外から来た除霊師?』


『赤札:いや、私もツバキ組だよ。それより、どうやって出れば良いんだろう』


 機関が用意したアプリにすらすらと吹き出しが踊る。たくさんの白い吹き出しの中に、一際異彩を放つ赤色が時々混じる程度で、会話は緩く進む。


『白札:普通に出れば良いだろ。何かあるのなら俺等じゃなくて相楽さんに相談すべき。だってお前、そこ立ち入り禁止区域だし』

『白札:喧嘩腰よく無いよ。本当に困ってるかもしれないでしょ?』

『白札:喧嘩腰も何も、そっちの赤札が勝手に入っちゃいけない場所に入ってるんだから仕方ない』


『赤札:さっきから外に出ようとはしているんだ。けれど、その度に何か強い怪異が追って来て出られない。助けて欲しい。嘘だと思うのなら、誰でも良いから支部の相楽さんにルームIDを送っておくれよ』


『白札:写メとか撮れないの?』


『赤札:撮れない。ごめん、ちょっと私にも特殊な事情があって、文字を打つ事以外は出来ないんだ』


『白札:おい、コイツ怪しいよ。言っておくけど、緊急コールしたら相楽さんが動いて他の赤札も動く事になるからな? その段階で悪戯でした、って言われても俺等は責任取れないぞ? 本当に嘘じゃないんだな?』

『白札:えー、悪戯じゃね?』

『白札:だけどさ、この人赤札だし、ここはアプリだよ? 悪戯なんてしたら機関IDで即身バレするじゃん。悪戯するメリット無くない?』


『赤札:嘘じゃないし悪戯でもない。良いから早く連絡してくれ』


『白札:お、おう……』

『白札:いやでも、何か怪しい奴が立てたルームだって事はバッチリ伝えるよ? そのぎ公園なんて、第一級危険区域だし。最悪、見捨てられる事も視野に入れておいてよ?』


『赤札:大丈夫。相楽さんはそんな事しない』


『白札:うーん、ガチで組合の除霊師っぽくはあるんだよなあ、そういう発言だけ見れば』

『白札:ごめん、本気みたいだからもう私が連絡しました』

『白札:えっ』


 瞬間、名前の付いた、白い吹き出しが1つだけ浮上した。


『相楽:分かった、そのぎ公園に行く。ただし、俺1人で行っても無駄死にするだけだからメンバーが集まるまで待ってくれ。良いか、絶対に生き延びろよ』

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