アメノミヤ奇譚
1話 アメノミヤ奇譚・上
01.資料を調べるよ、南雲くん!
支部の地下、資料室にて。
南雲は十束に教えて貰った『アメノミヤ奇譚』というファイルを漁っていた。ア行だったのですぐに見つかったのは僥倖だったと言えるだろう。なお、資料室の鍵を借りに受付へ行ったら受付嬢から二度見された。
「何かヤベェ事件だな、これ……」
資料室には誰もいなかったので南雲の呟きが僅かに反響する。粗方それを読み終えたので、元あった場所にファイルを戻した。
簡単にまとめると以下のようになる。
当時、およそ3年前に挑んだメンバーは4人。十束、トキ、ミソギ、そして雨宮だ。彼等は同期であり、アメノミヤ奇譚時には研修を終えて半年経つか経たないかくらいの新人だった。
『そのぎ公園』で起きた行方不明事件――怪異事件を追っていた4人は、そのぎ公園で起きる怪異の全容が一切分からず現地で直接しらべていたらしい。しかし、それは結果的に言えば失敗だった。
突如襲い掛かって来た強すぎる複数の怪異に手も足も出ず、撤退を余儀なくされたがそのぎ公園は広い。出口は二カ所しか無く、雨も降っていたようでなかなか公園の外に出られなかった。一応、雨宮を除く3人は無事帰還出来たのだが、雨宮その人は昏睡状態に陥り、今もなお目覚めていない。霊障センターに入院しているらしいが、回復の兆しも無いとの事だった。
ちなみに、新人であった事とどちらかと言うと事故色が強かったせいか、ミソギ達は本部からのペナルティを逃れている。
恐らく、今やっと自分はその他の赤札が持っている『アメノミヤ奇譚』の情報量に追い付いたのだと思う。しかし、腑に落ちない事がある。
生き残った同期組3人の関係性だ。トキとミソギはともかく、そこに十束が加わるとどことなく気まずい空気が漂う。この資料には載らない、当事者間にしか分からない何かがあったのだろうか。
そして――相楽の主張。
ファイルの最後に載せられていたが、この事件において相楽は『人為的な怪異の仕業ではないのか』、という意見を提唱している。その発言で思い返されるのは『供花の館』だ。
他の組合長達には取り合って貰えなかったようだが、『人為的怪異』について執着心のようなものが見え隠れしている。
「大事故だな。俺も気を付けねぇと」
訳知りがいやに多いと思っていたが、ファイルの記述からして当時は大騒ぎになったようだ。後にも先にも、組合範囲内でこんな大事故が起きた事は無いとも書かれていたし。
――と、不意にマナーモードにし忘れていたスマホが着信を告げた。自分以外に人がいないとは言ったが、何となく慌てて画面に視線を落とす。
大変珍しい事に電話を掛けて来ているのはトキだった。
更に慌てて通話ボタンを押す。
「ちわー、南雲っす。トキ先輩、どうかしたんすか?」
『おい、ミソギと今一緒にいるか?』
「え? 俺が? いや今俺は一人っすけど。何で?」
『ミソギと! 電話が繋がらないッ!!』
「ちょ、落ち着いて下さいって! 先輩だって四六時中スマホ見てる訳じゃないっしょ。バスに乗ってるとか、今偶然手元にスマホが無いとかそんな感じじゃないすか?」
そう言って宥めてはみたが、トキの苛々としていて興奮していて、同時に動揺したような口調は変わらなかった。
『そんな訳あるか、待ち合わせをしていた』
「えー、じゃあ……んー、遅刻しそうで今急いで来てるかもしれないでしょ。つか、トキ先輩は今どこにいるんすか?」
『支部にいる』
「あ、俺も丁度今、支部にいるんで合流しましょうよ。あれでしょ? 仕事でしょ?」
『……チッ。ロビーにいる』
荒々しい音と共に通話が途切れる。一体何をそんなに焦っているのだろうか。疑問に覚えながらも画面を消そうとして、何気なく天気情報に目が留まった。勝手に受信されるそれは、今日から3日は細い雨が続くとの予報を流している。
――雨3日とか、嫌な天気だな。
休み明けから雨だなんて。ついていない。
鬱屈とした気分で資料室を後にし、鍵を掛ける。ロビーへ行く前に受付へ寄り、鍵を返した。その足でトキの待つロビーへと向かう。
ロビーにはチラホラと人がいる程度で、他に同僚の姿はほとんど見られなかった。外に出ているのか、昼間だから人の行き来が無いのか。その辺はよく分からないが、そういう訳でトキは思いの外すぐに見つかった。
苛々した態度でスマホの画面を睨み付け、腕も足も組んで備え付けの椅子に腰掛けている。ただし、そんな彼は一人ではなかった。向かい側には十束もいる。彼がいたから、電話口の声が荒々しかったのかもしれない。
「センパーイ、来ましたよ。どうしたんですか?」
トキが顔を上げ、苦い顔をした十束が振り返った。
「おっ、南雲! お前もいきなりトキに呼び付けられたのか?」
「おい、人聞きの悪い事を言うな。しかも、貴様の事は別に呼んでいないッ!!」
「そ、そう言うなよ……」
よく事情が呑み込めないが、十束は騒ぎを聞いてこの場に留まっているだけなのだろうか。お節介焼きな所があるし、慌てて苛々しているトキを放っておけなかったのだろう。
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