第21話 相手の術式を消す術式、無効化

 これまでの話を総括してもそうだが、基本的に魔術師の話や説明には、大きくわけると二種類ある。


 可能だが、現実的ではない。

 不可能ではないが、実現は難しい。


 前者は、実際にその術式を扱うことは可能で、比較的簡単だが、実用には向かないという意味合いで、何かしらの欠陥を内包するもの。

 後者は、理屈先行型で、机上の空論ではなく理詰めでその術式が可能であると証明できるのに、実際に使うために必要な要素が多すぎて、たとえば、一生を費やしても時間が足りない、などという場合に起こる。


 では、術式を消す、ないし無効化する術式はどうか?

 どちらかといえば、可能だが現実てきではない――だ。


 術式を使わせない、という場合ならば、それは制限をかけることなので、いろいろと方法がある。たとえば魔力封じなどが一般的で、体内の魔力を外に出さないよう制限をかけ、構成式を作っても魔力がそれに流せない状況を作り出す。いわゆる封印に近いので、今回の説明からはやや外れるだろう。


 これにも、大きく二つの方法が存在する。

 その一つが、通称を対解タイカイと呼ぶ方法だ。


 これは術式ではあるが、いわゆる対術式とも呼ばれるもので、それほど難しくはないが、実用となるとタイミングがシビアだし、ほかの条件もある。

 術式の完成までにおける、一連の流れは、第1話で書いたが、ここでも軽く説明しておこう。


 魔術回路→魔術構成→術式。


 きちんと書いたかどうかはわからないが、魔力はいずれにも必要となる。回路を通して構成を編むのに使い、術式の発動の際にも、回路を通した魔力が必須だ。

 そして構成とは、綿密な構造をしており、一つのミスがあれば術式として完成しない――故に。

 対解は。

 相手の術式発現の際に生じる、魔術構成そのものに、外部から手を加えるのだ。


 


 マッチを使って火を熾す。

 これを術式とするなら、構成の部分はマッチそのものだ。こすって火を熾そうとした時、マッチ棒の先端を折るのが、対解だ。

 綿密である魔術構成に雑音ノイズを混ぜるのである。


 戦闘領域を作る際に、これを混ぜる場合はよくある。屋敷などの居を構えている場所だと、わかりやすいだろうか。敷地範囲内に自分には害のないノイズを発生させ、術式の使用を難しくさせる。これらは一般的な妨害術式だろう。

 ――戦闘時。

 まずは、相手の術式構成を視認することが必須とされる。見えなくても感じれば問題ないが、一度でも失敗すると、失敗した対解を相手に悟られ、対策を練られる可能性があり、それは戦闘において致命的だ。

 そして、相手の構成に雑音ノイズをぶつける。これだけで相手の術式は完成しなくなるが、最低でも10パターンほど、雑音の種類を作っておくと良い。戦闘の場を常とする魔術師は、最低でも5パターンくらいの対策を持っている。


 しかし、実際にこれを使われると厄介だ。殴ろうとして避けられ続け、体力を奪われる感覚に近いものがある。

 ただ、使い手にも問題がある。対解を扱う魔術師のほとんどは、対解の術式に特化するため、攻撃方法がほかに必要となる。大抵はナイフなど、体術を使うが――いや、問題となるのは、対峙した側か。


 もう一つ。

 相手の術式を消すものも、存在する。

 これは、相手の魔術構成を、発動させる魔力ごと消す術式だ。


 術式によって具現した火は、そもそも、現象だ。それを術式で消したいのなら、水を作り出す術式を使ってやればいい。だがこれでは、消去術式にはならない。

 現実に効果を発揮した術式は、もはや現象となるのはこれまでにも説明してきたが、逆説、この現象とは術式でなくとも発生するわけで、これを消そうと思っても、術式が消えるわけではない。

 現象が消えるだけだ。

 つまり、何かしらの現象が発生した時点で、術式は完成なのだから、そこを消すのは――まあ、本題としては、不可能としておこう。


 火を発生させよう。

 紙に火を点けて、木を燃やす。

 これらを一つの構成として作り、魔力マッチを使って術式とする。

 ――この流れの中、唯一、全てが繋がる瞬間が存在する。

 マッチで小さな火を点け、それを紙に触れる瞬間だ。

 この瞬間は、構成である紙と木、そして魔力とされるマッチ、それどころかマッチを持っている本人までが繋がる――であれば。

 術式が発生した瞬間、火が生じる刹那、全てが繋がったのならば――その火から辿って、相手の魔力を押しつぶせる。

 マッチを、消すことができる。

 これがいわゆる、消去術式の基本。

 相手の術式の中を、自分の術式を逆走させて、発生を消してやるのだ。


 これを常時化したものを、等価消華魔術ヴァニシングレイドと呼ぶ。

 ジェイ・アーク・キースレイという魔術師がこれを考え、魔術書にもしている。


 自身を中心にしてドーム状の境界を区切り、そこに放たれたあらゆる術式を消す。しかし、本人は身動きができず、そして術式を消すために、放たれた術式と同量の魔力を消費する、という制限もかかった。

 制限の多さ、難しさは、そのまま術式自体の難しさに直結する。

 だがそれでも。

 条件があっても、その術式を完成させたのは、大きな発明であった。


 余談だが。

 相手の術式を逆走させるなら、一緒に相手の魔力も奪えないだろうか。

 いわゆる吸収アブソートという特性に関連することなのだが、これは可能だが現実的ではない部類に入る。

 何故か。

 相手の術式から魔力を奪う、使魔力を消費するからだ。

 ちなみに、魔力消費量は奪う魔力よりも多い。

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